電力中央研究所

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電力中央研究所 報告書(電力中央研究所報告)

報告書データベース 詳細情報


報告書番号

EX21012

タイトル(和文)

2030年におけるブルー水素製造の経済性分析

タイトル(英文)

Cost analysis of blue hydrogen production in 2030

概要 (図表や脚注は「報告書全文」に掲載しております)

背  景
水素の需要は今後、脱炭素化に向けて増大すると見込まれるが、再エネ電力から製造するグリーン水素注1)だけでは、近い将来の水素の大量需要を満たすことは難しい注2)。このため各国の水素戦略では、CO2の分離回収貯留(CCS)を伴って化石原料から製造する ブルー水素注1)の利用も想定しており、その経済性評価が望まれている。また、CCSを行っても一部のCO2が排出されるため、経済性評価においては、炭素の排出に対して課せられるCO2価格を考慮する必要がある。

目  的
国際エネルギー機関(IEA)などの報告を基に、製造地や原料の違いによるブルー水素の経済性の現状および2030年の見通しを整理する。また、日本への輸出が期待される豪州のブルー水素について、CO2価格の影響を含めた経済性を独自に評価する。

主な成果
水素製造にかかる経済性指標の均等化水素原価(LCOH)について、製造地におけるLCOH (以下、製造地LCOH注3))をIEAの報告注4)などを基に整理し、製造地や原料(天然ガスや石炭)による違いを比較した。

1. 欧州の天然ガスを原料とするブルー水素とグレー水素注1)の比較
現在、天然ガスを原料としCCSを伴わないグレー水素が世界的に流通している。IEAの試算によると、CCSを行うことで製造地LCOHは現状(2019年時点)で約5円/Nm3上昇する注4)。2030年において、ブルー水素の製造地LCOHは、CCSの技術進展により設備費と運転維持費が低下するが、天然ガス単価が現状の0.76円/MJ から0.83円/MJに増加するため、現状の23円/Nm3から低下しない見通しである注4)。

2. 原料の違いによる欧州と中国のブルー水素の製造地LCOHの比較
IEAによる2030年予測から、欧州の石炭を原料とするブルー水素の製造には上述の天然ガスを原料とする場合に比べて2倍以上の設備費と運転維持費を要するが、原料費が安価なため、製造地LCOHとしては同程度の約23円/Nm3となる(図1)。
一方、中国では現在、石炭を原料とする安価なグレー水素が主に流通している。石炭単価を3,300円/t(発熱量を6000 kcal/kgで換算)としたIEA試算によると、ブルー水素の製造地LCOHは約15円/Nm3となり、CCSを行っても世界的に最も安価である。これは欧州などに比べて中国では設備費が低いためである注4) 。

3. 豪州のブルー水素とグリーン水素の製造地LCOH試算とCO2価格の影響
国際機関などの前提条件注5,6)を基に、CO2価格を考慮した2030年の豪州におけるブルー水素とグリーン水素の製造地LCOHを試算した。石炭が原料のブルー水素はCO2価格注7,8)が上乗せされることにより最も安いケースを仮定したグリーン水素よりも若干高くなる可能性がある。また、いずれの製造地LCOHも褐炭由来のブルー水素についての政府目標価格 12円 /Nm3注9)より高く、設備費の低減などによる一層の低コスト化が求められる。さらに、大量排出されるCO2の貯留について商用化促進も必要である。

注1)再エネ由来をグリーン水素, 化石原料由来のうちCCSを行わない場合をグレー水素, 行う場合をブルー水素と呼称.
注2)BP Energy Economics, Energy Outlook 2020 Edition (2020).
注3)日本まで輸入する場合, 液化, 輸送に加え積荷揚荷基地での貯蔵などのコストを, 製造地LCOHに加算.
注4)国際エネルギー機関(IEA), The Future of Hydrogen (2019).
注5)設備費と運転維持費はIEAの報告値 (2019)を使用. 天然ガスおよび石炭の原料価格予測は闞と柴田(エネルギー資源, Vol.40, No.1-7) ( 2019)の報告による0.64円/MJ-天然ガスと2,760円/t-石炭(6000 kcal/kg換算)を使用.
注6)IRENA報告から,製造地LCOHが最低となる再エネ電力とPEM形水電解設備の前提条件を使用.
   再エネ電力価格は陸上風力3.3, 太陽光2.2円/kWh, 水電解設備の単価として7.2万円/kWを使用.
注7)IEAの2030年想定の11,000 円/t-CO2 (1 米ドルを110 円として換算)を使用.
注8)Hydrogen Council(2020)による報告のCO2排出原単位の2030年想定を使用.
注9)水素燃料電池戦略ロードマップにおける褐炭ガス化水素の製造地LCOHの2022 年頃の目標.

概要 (英文)

Hydrogen is one of the most promising elements in efforts to accelerate the realization of a low-carbon society and also for sector coupling. Although green hydrogen, produced by water or steam electrolysis using renewable energy (power to gas), is preferred as it produces much less CO2, it is expected to remain very costly in the coming decades and also it requires an enormous and rapid increase in the capacity of renewable energy to satisfy the increasing hydrogen demand. Hence it is considered that hydrogen produced from fossil fuels with CCS, which is so-called blue hydrogen, will play an important role in the coming years in accelerating the realization of a hydrogen society. This paper first summarizes the cost analysis of gray hydrogen which is produced from fossil fuels without CCS and blue hydrogen as reported by several institutions. Subsequently, some comparisons are made between gray and blue hydrogen, with costs today and in 2030, and hydrogen produced from coal and natural gas. It should be noted that even when CCS is applied, a certain amount of CO2 that is typically reported as 10%, is released during blue hydrogen production owing to the cost limitations of CCS. It is also expected that the price of blue hydrogen, which is cheaper than green hydrogen without taking into account the price of CO2, will increase with the increase in the price of CO2 in coming decades. Therefore, in the present study the costs of blue hydrogen and green hydrogen were analyzed with the increase in the price of CO2 being taken into account by referring to a life cycle assessment carried out by an international institution. The results showed that blue hydrogen may be cost competitive or cost more than green hydrogen as the price of CO2 would be as high as the assumption for 2030 by the International Energy Agency (IEA).

報告書年度

2021

発行年月

2022/03

報告者

担当氏名所属

西 美奈

エネルギートランスフォーメーション研究本部 エネルギー化学研究部門

山本 博巳

グリッドイノベーション研究本部 ENIC研究部門

竹井 勝仁

エネルギートランスフォーメーション研究本部 研究統括室

キーワード

和文英文
水素製造 Hydrogen production
化石原料を用いた水素製造 Blue hydrogen, produced from fossil fuels
二酸化炭素の分離回収貯留 Carbon dioxide capture and storage
二酸化炭素価格 CO2 price
コスト評価 Cost analysis
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