電力中央研究所

報告書「電力中央研究所報告」は当研究所の研究成果を取りまとめた刊行物として、昭和28年より発行されております。 一部の報告書はPDF形式で全文をダウンロードすることができます。

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電力中央研究所 報告書(電力中央研究所報告)

報告書データベース 詳細情報


報告書番号

GD24019

タイトル(和文)

電力系統動特性解析における電圧・電流計算の収束性向上

タイトル(英文)

Enhancing Convergence in Network Calculation of Voltages and Currents in Power System Dynamic Analysis

概要 (図表や脚注は「報告書全文」に掲載しております)

背  景
電力系統の安定性を評価するためには,Y法注1)のような動特性解析が一般的に用いられる。インバータ電源の連系が拡大し,電圧維持能力を有する同期機の連系が減少すると,電圧・電流に関して非線形の特性注2)を有する設備が増加すると共に,電力系統は電圧変動が生じやすい状態となる。このような条件下で電力系統をY法で解析する場合,シミュレーションの各時刻で行われる系統計算注3)の収束性が悪化し,計算が収束せずシミュレーションが途中で停止することがある。
目  的
Y法の系統計算の収束性を向上させるためにアルゴリズムを改良し,その有効性を検証する。
主な成果
1. 系統計算の収束性を向上させるためのアルゴリズムの改良
Y法の系統計算では,収束計算の数値解法としてニュートン法を用いている。系統計算が収束しない解析ケースの収束過程を分析した結果,電圧安定性限界に近い状態となり,ニュートン法で用いるヤコビ行列注4)が特異行列注5)となることが要因であると把握した。そこで収束性を向上させるため,ヤコビ行列の特異性を行列式と特異値を用いた指標注6)で判定し,特異行列に近いと判定した場合にはニュートン法から逐次代入法注7)に切り替えるように系統計算のアルゴリズムを改良した(図1)。
2. シミュレーションによる改良手法の有効性検証
電気学会 WEST30 機系統モデルにおいて一部の同期機をインバータ電源に置き換え注8),三相地絡事故時のシミュレーションを行った。従来手法では,事故発生直後に系統計算の非収束が発生したが,改良手法ではシミュレーション終了時間まで非収束が発生しなかった(図2)。また,改良手法は逐次代入法のみを適用した場合と比較して,系統計算の反復回数が少なく計算時間が短いことを確認した(表1)。
注 1) 当所開発の電力系統統合解析ツール(CPAT:CRIEPI’s Power system Analysis Tools)の解析機能の一つである動特性解析プログラム。電力系統に外乱が加わった場合に,実効値領域での過渡的な振る舞いを時間領域シミュレーションにより解析する。
注 2) 例えば,インバータ電源を簡易的に定電力特性によりモデル化する場合,電流は電圧に対して反比例の関係となる。
注 3) 各機器モデルで計算される系統への注入電流から,系統側の電圧・電流関係式を用いて系統各部の電圧を求める計算。電圧・電流の関係が非線形特性となる機器が系統内に含まれる場合,系統各部の電圧が収束するまで反復計算を行う必要がある。この電圧・電流計算は慣例的に系統計算と呼ばれることから,本報告でも系統計算とする。
注 4) ヤコビ行列は,機器モデルおよび系統側の電圧・電流関係式を線形化して得られる行列。反復計算での電圧の更新に用いる。
注 5) 特異行列は逆行列が存在しないため,数値計算において特異行列に近い状態となると逆行列計算で大きな数値誤差が生じる。
注 6) 指標は既刊報告書GD23013 の電圧安定性指標を適用した。
注 7) 非線形方程式を解く際に用いられる反復法の一つ。現在の解を方程式に代入して新しい解を計算する操作を繰り返して解を得る手法。ニュートン法と比較して収束速度が遅いが,ヤコビ行列を計算する必要がないという利点がある。
注 8) WEST30 機系統のG2 とG10 をインバータ電源に置き換えた系統モデル。インバータ電源は定電力特性として模擬している。

概要 (英文)

As the penetration of inverter-based resources grows, the number of synchronous machines-traditionally have voltage regulation capability-decreases, leading to increased voltage fluctuations. Dynamic simulations, such as the Y-method developed by CRIEPI, are necessary to assess such power systems' stability. However, when the Y-method is used to analyze power systems that include inverter-based resources represented by nonlinear characteristics under increased voltage fluctuations, the convergence of network calculation at each simulation time step worsens, and non-convergence results in the early termination of the simulation.
The Y-method uses the Newton method for network calculation. However, when the power system approaches the voltage stability limit, the Jacobian matrix becomes a singular matrix, and a convergence error occurs. To address this issue, a criterion based on the determinant and singular values is introduced to detect near-singularity, enabling an adaptive transition to the successive substitution method. This approach enhances convergence performance compared to the conventional method.
The effectiveness of the proposed method is demonstrated using a modified IEEJ WEST 30-machine System Model, where several synchronous machines are replaced with inverter-based resources. The conventional method fails to converge after a fault, whereas the proposed method maintains convergence throughout the simulation. Furthermore, the proposed method reduces the total number of iterations and computation time compared to a purely successive substitution method.

報告書年度

2024

発行年月

2025/05

報告者

担当氏名所属

河村 集平

グリッドイノベーション研究本部 ネットワーク技術研究部門

菊間 俊明

グリッドイノベーション研究本部 ネットワーク技術研究部門

天野 博之

グリッドイノベーション研究本部 ネットワーク技術研究部門

キーワード

和文英文
動特性解析 Dynamic Analysis
系統計算 Network Calculation
収束性 Convergence
非線形特性 Nonlinear Characteristics
Y法 Y-method
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