電力中央研究所

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電力中央研究所 報告書(電力中央研究所報告)

報告書データベース 詳細情報


報告書番号

H19007

タイトル(和文)

油浸紙積層絶縁系の油隙での部分放電による絶縁油の分解ガス発生様相の把握

タイトル(英文)

Study on Decomposition Gas by Partial Discharge on Oil-impregnated Paper Insulation System with Oil Gap

概要 (図表や脚注は「報告書全文」に掲載しております)

背  景
高経年化したOFケーブルの接続部で絶縁破壊に至る事例があり,劣化診断技術注1)の精緻化が求められている。OFケーブルの絶縁構成上の主な弱点は油隙注2)であるが,油隙を有する絶縁系での部分放電(PD)様相やPDによる絶縁油の分解ガスの発生様相は未解明であった。そこで当所では,劣化診断技術の高度化に向けて,油隙を有する絶縁系を用いてそれらの様相の把握を進めている。これまでに,PD様相について,PDによる分解ガスが気泡として油隙に残存すると PDが継続し得ることなどを確認してきた注3) [1]。一方, PDによる分解ガス発生様相としては,これまでに針-平板電極系での検討が数多くあるが,油隙を有する絶縁系でのPDによる分解ガス発生様相については,針-平板電極系とは気泡残存状況が異なることから,その様相の把握が必要であった。
目  的
油隙を有する油浸紙積層絶縁系でのPDによる絶縁油の分解ガスの発生様相を把握する。
主な成果
油隙中でPDを短時間発生させた場合と長時間発生させた場合で,PD発光と気泡を観察した後,油隙から採油した絶縁油の分解ガスを把握し(図1),以下の成果を得た。
1. 分解ガスの発生量と割合の把握
油圧や油隙厚,付着物注4)の条件が異なる供試体にて,PD発生時の分解ガスの発生量および分解ガスの割合を得た。総放電電荷量に対する分解ガスの発生量は,PDを短時間発生させた場合に比べて,長時間発生させた場合の方が少なかった(図2(a))。また,分解ガスの割合は,PDを短時間発生させた場合では放電によるH2主導形のガスパターン注5)に近かった(図2(b))。一方,PDを長時間発生させた場合では,放電によるH2主導形のガスパターンと過熱によるC2H6主導形のガスパターン注5)の組合せに近かった(図2(c))。
2. 油隙の観察に基づく分解ガスの割合の考察
油隙中でPDを短時間発生させた場合はPDが油中を進展し(図3(a)),長時間発生させた場合はPDが気泡中で発生する様子を観察した(図3(b))。この違いによって絶縁油の分解様相が異なり,分解ガスの割合が前述のようなガスパターンとなったと考えられる。
以上より,分解ガスの割合からPDの発生状況を把握できる可能性を見出した。

注1)OFケーブルは,接続部の絶縁油に対する油中ガス分析結果に基づいて保守管理されている。また,油中ガス分析に加えて,一部の電力会社では,絶縁破壊の前駆現象である部分放電の測定による劣化状態の把握も行われている。
注2)ケーブル曲げ特性を良くするために,絶縁紙は導体上に隙間を設けて巻かれており,それによって絶縁紙間に油隙が形成される。絶縁油の誘電率は油浸紙の誘電率よりも小さいため,一般的に油隙は電気的弱点となる。
注3)油隙を有する絶縁系では,PDが単発的に発生し,それによって発生した分解ガスによって絶縁油のガス吸収能力が低下していくと,気泡が残存するようになってPDが継続して発生するようになると考えられる。
注4)OFケーブルの絶縁破壊の要因として,油隙の重なりと開閉操作等に伴う過電圧の侵入や,絶縁紙上に析出した硫化銅などの銅化合物(付着物)によって部分放電が発生した可能性が指摘されている。そこで,水野:「電力用油入変圧器における硫化腐食メカニズムの解明と診断技術の開発」,九州工業大学博士学位論文, pp.15-21を参考に硫化銅が付着した絶縁紙を作成し,この絶縁紙を用いて油隙を構成した。
注5)電協研第65巻第1号「電力用変圧器改修ガイドライン」。ガスパターンのうち,H2主導形はH2が分解ガスの中で最も多い場合で,放電を伴う事象と推定される。C2H6主導形はC2H6が最も多い場合で,過熱を伴う事象と推定される。

概要 (英文)

Decomposition gases by partial discharges (PD) on oil-filled cables was experimentally investigated. A test sample was composed of sheets of oil-impregnated paper without any hole and those with a hole. They were sandwiched between parallel plane electrodes. An oil gap was made up by overlapping sheets of oil-impregnated paper with a hole. PD was generated in a short or a long duration. After that, insulating oil of the oil gap was taken from the oil sampling pipe connected to the oil gap. Then, the dissolved gas analysis was conducted. In some cases, the condition of the oil gap and PD light emission were observed. As the result, followings were revealed. The total amount of hydrocarbon gases was relative to the total amount of PD magnitude. The ratio of the total amount of hydrocarbon gases to the total amount of PD magnitude in the short duration case was higher than in the long duration case. There was a difference between in the short duration case and in the long duration case on the ratio of each gas to the total amount of gases, called the gas pattern. The gas pattern in a short duration case was like H2 pattern that represents the occurrence of PD in insulating oil. On the other hand, the gas pattern in a long duration case was like the combination of C2H6 pattern that represents the heating of insulating oil and H2 pattern. PD occurred through the insulating oil in the short duration case. On the other hand, PD occurred at gases in the long duration case. It was estimated that the difference of the gas pattern in the two cases was the difference of the place where PD occurred.

報告書年度

2019

発行年月

2020/06

報告者

担当氏名所属

牧野 裕太

電力技術研究所 固体絶縁・劣化現象領域

栗原 隆史

電力技術研究所 固体絶縁・劣化現象領域

高橋 俊裕

電力技術研究所 固体絶縁・劣化現象領域

キーワード

和文英文
OFケーブル Oil-filled cable
油浸紙積層絶縁系 Oil-impregnated paper insulation system
部分放電 Partial discharge
分解ガス Decomposition gas
油隙 Oil gap
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