電力中央研究所 報告書(電力中央研究所報告)
報告書データベース 詳細情報
報告書番号
SE25003
タイトル(和文)
多目的化する省エネ政策の課題―米国家庭・業務部門の政策展開過程とわが国への示唆―
タイトル(英文)
Challenges in Multi-Objective Energy Efficiency Policy: Lessons from Policy Development in the U.S. Residential and Commercial Sectors
概要 (図表や脚注は「報告書全文」に掲載しております)
背 景
省エネはわが国のエネルギー政策の主要分野の一つであり、2022 年の省エネ法改正では政策目的に非化石エネルギー転換が追加された。CO2 削減に向けて、エネルギーの供給側のみならず需要側でも、徹底した省エネに加え、電化やデマンドレスポンスの促進が求められている。このように省エネ政策の目的が拡張する中で、米国では2020 年前後から、州・自治体レベルで政策強化の動きが見られるものの、課題にも直面している。2025 年1 月に発足したトランプ政権下で、連邦レベルの政策の不確実性も高まっている。
目 的
わが国の省エネ政策への示唆を得るため、米国の家庭・業務部門における需要側政策の強化や見直しの過程を明らかにする。
主な成果
政策の前提条件や方向性が異なる主体として、連邦、カリフォルニア州、バークレー市、ニューヨーク市、コロラド州の五つに注目し、近年の変化を象徴する政策事例の展開過程を明らかにした(表1)。これらの事例を踏まえ、(1)先行事例の展開過程に見られる構図の整理、次いで(2)規制、(3)導入補助、(4)情報・データ活用という政策手法別の検討、さらに(5)供給側政策との関係という五つの観点から考察した。
(1) 先行事例の現在地をどう捉えるべきか
省エネとCO2 削減の両立に向けた需要側政策をどの程度まで推進し得るかは、各主体が直面する課題である。米国では、長期目標を掲げる主体の中で政策を大幅に強化する動きが見られたものの、その成否はなお明らかではない。バークレー市が2019 年に制定した新築ガス配管接続禁止条例は、政策の模倣と警戒の双方の反応をもたらすとともに、訴訟を経て撤回に至った。その他の事例も、制度導入が先行した結果、詳細な制度設計や関係者間の調整が継続しており、対策の実現可能性を探る過程にある。
(2) 規制はどのように更新されつつあるのか
規制の目的にCO2 削減が加わることで電化も求められ要求水準は高まるが、段階的な規制強化や複数の履行手段の設定により対応が図られている。例えば、カリフォルニア州の新築住宅向け省エネ基準では、2022 年改正で電化レディ要件が導入され、2025 年改正ではヒートポンプが標準仕様として位置づけられた。ニューヨーク市の大規模建物排出規制では、再エネクレジットやオフセットの利用を認めつつ、その範囲を限定することで建物内での対策を促す設計とし、早期の電化を優遇する措置も追加された。
(3) 補助制度の意義をどのように高めるか
導入補助は機器・工事費負担の軽減に加え、販売・設置業者への動機づけなどを通じて市場変革を促し得る。連邦のインフレ抑制法に基づく電化機器補助やカリフォルニア州のTECH イニシアチブなどを通じて、ヒートポンプへの支援が強化されてきた。一方、補助制度は財政負担を伴うことから、その効果を高める運用が一層求められ、設計段階から改善のための評価を組み込む工夫も見られる。また、初期投資余力に欠ける低所得者を優遇することで、社会課題の同時解決を図る仕組みが採用されることもある。
(4) 情報とデータを省エネ政策にどう活かすか
情報提供は、それ単独で省エネ・電化投資を引き出す効果は限定的であるものの、規制や補助を補完する手段としての役割がある。ニューヨーク市では、市が管理する支援組織を通じて、排出規制への対応、技術的助言、補助・融資制度の紹介などの伴走支援を無料で提供している。また、カリフォルニア州では、利用可能な補助制度や施工業者を検索できるウェブサイトと連携した消費者向け周知に加え、補助利用データに基づく導入費用実態などの情報共有を図るとともに、評価分析結果を制度改善に活用している。
(5) 省エネ政策を供給側政策とどう整合させるか
長期間使用される建物・設備対策が重要となるにつれ、対策の評価に電源構成の変化を織り込む必要性が高まる。ニューヨーク市の建物排出規制では、将来低下が見込まれる電気のCO2 排出係数を用いることで、電化の効果が過小評価されない制度としている。電気利用機器の柔軟性資源としての活用に向けた検討も進められているが、機器制御手法は収斂していない。従来の省エネ対策よりも動機の不一致が生じやすいため、政府、エネルギー事業者、機器メーカー、建物オーナーなどの役割分担を整理する必要がある。
概要 (英文)
Energy efficiency is a central element of Japan's energy policy, and the 2022 revision of the Energy Conservation Act formally added the non-fossil energy transition as a policy objective. As national and local governments pursue carbon neutrality, clearer pathways on the demand side are increasingly required alongside supply-side measures. Since around 2020, U.S. states and municipalities have advanced policies under the banner of building decarbonization. While these initiatives have expanded rapidly, their implementation has revealed challenges related to feasibility and social acceptance. In addition, uncertainty at the federal level has increased following policy shifts since January 2025. This study examines five U.S. actors - the federal government, California, Berkeley, New York City, and Colorado - to analyze how demand-side policies have been designed, adjusted, and implemented. Focusing on regulation, subsidies, information-based measures, and coordination with supply-side policy, the analysis shows that ambitious targets often require phased implementation and institutional flexibility, that subsidy design plays a key role in improving feasibility and acceptance, and that alignment with power-sector decarbonization is critical for sustaining the effectiveness of demand-side measures.
報告書年度
2025
発行年月
2026/05
報告者
| 担当 | 氏名 | 所属 |
|---|---|---|
主 |
西尾 健一郎 |
社会経済研究所 |
共 |
中野 一慶 |
社会経済研究所 |
共 |
山田 愛花 |
社会経済研究所 |
キーワード
| 和文 | 英文 |
|---|---|
| 省エネルギー | Energy efficiency |
| 温暖化対策 | Climate change policy |
| 電化 | Electrification |
| ヒートポンプ | Heat pump |
| 建物脱炭素 | Building decarbonization |
