電力中央研究所

報告書「電力中央研究所報告」は当研究所の研究成果を取りまとめた刊行物として、昭和28年より発行されております。 一部の報告書はPDF形式で全文をダウンロードすることができます。

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電力中央研究所 報告書(電力中央研究所報告)

報告書データベース 詳細情報


報告書番号

Y16001

タイトル(和文)

排出量取引制度の設計と現状の評価

タイトル(英文)

Design and experiences of emissions trading

概要 (図表や脚注は「報告書全文」に掲載しております)

【背 景】
諸外国で導入が進む排出量取引制度は,温室効果ガスの排出に対する価格付けを通して排出抑制を動機づける制度の代表例である.日本は経済影響や技術的な制約等を考慮し,国の掲げるエネルギー需給のあるべき姿(エネルギーミックス)と整合的な温室効果ガス排出削減目標を掲げ,その実現のためにエネルギー需給の両面で様々な施策を講じている.一方,排出量取引制度に関しては,具体的な導入予定はないものの,長期かつ大幅な排出削減のための費用効果的な政策手段とする意見と,効果を疑問視する意見とで二分され,大きな議論を呼んでいる.

【目 的】
国内外の主要な排出量取引制度について,制度設計や効果に関する実証研究,他の削減政策との関連性を調査し,日本における今後の政策議論への示唆を得る.

【主な成果】
1.国内外の主要な排出量取引制度の特徴
各国・地域の制度設計は規制対象,キャップの設定,割当方式など,細部の項目で大きく異なるが,近年,多くの国・地域に共通する傾向として,価格安定化措置(特に排出枠の戦略的備蓄)の相次ぐ採用がみられる(表1).排出量取引制度では将来のキャップを事前に設定するが,排出量の将来見込みが外れると排出枠の過剰(または不足)が起き,価格の低迷(または高騰)を招く.EU ETSなどの主要制度でこの現象が発生したことで,価格安定化措置の導入が広まった.排出枠の戦略的備蓄は比較的新しく導入され始めた措置であるため,今後の運用の中で効果を検証していく必要がある.

2.排出削減効果と経済への影響
EU ETSを中心に進められている事後検証では,効果の評価は大きく分かれ,現状では明確な結論に至っていない.リーケージ注)が無かったと評価された事例分析は,現実の低い価格水準の下で得られた結果であり,価格高騰時におけるリーケージの可能性を否定するものではない.また,これまでリーケージは貿易産業に特有の問題とされてきたが,電力部門でも電気料金高騰による電力多消費産業でのリーケージや,電力部門内の制度対象外電源へのリーケージが生じる可能性が指摘されている.

3.政策パッケージにおける排出量取引制度
排出量取引制度の導入で先行する地域では,低炭素電源の活用等による長期かつ大幅な排出削減を図るため,排出量取引以外の施策を併用し低炭素投資を促している(表2).他施策での排出削減が進むと排出枠の価格は低い水準にとどまるため,排出量取引制度の役割は相対的に小さくなる.

4.今後の日本での政策論議への示唆
2030年のエネルギーミックス実現のため,日本では省エネルギーや再生可能エネルギーの推進,電気事業の自主的取り組み,省エネ法・供給構造高度化法の下での規制強化等が講じられている.排出量取引制度で先行する国・地域でも取引以外の措置を併用する傾向が強まる中,日本はもともとこれらの施策を温暖化対策の中心に据えている.
長期的な排出削減の目標年である2050 年に向けては,産業・技術・社会の大きな変化により排出量見通しの不確実性が高まるため,安定的な価格シグナルを与えるキャップの設定は一層困難になる.このことを踏まえれば,排出量取引制度の導入を予断せずに2050年を見据えた総合的な施策のあり方を検討すべきである.

注)規制対象からの排出を減少させる代わりに,制度の範囲外からの排出を増やしてしまう現象.

概要 (英文)

There is momentum growing in climate policies to put economic value on greenhouse gas emissions and incentivize firms and consumers to reduce emissions, whose typical example is emissions trading. This report examines major policy measures such as EU ETS, California cap and trade, RGGI, CPP and Tokyo metropolitan trading program with a focus on principal design, environmental effectiveness and interaction with other policy measures. Key implications are written below.
Firstly, there is the tendency to implement functions to control market price, despite the fact that it was primarily designed to control quantity of emissions. This is because setting a cap in advance faces a large uncertainty in future emissions, whereas it is worthwhile in a market stability point of view. Therefore, it is recognized as important to set a cap with price stability mechanisms. On the other hand, these mechanisms sometimes allow emissions variation.
Secondly, despite of accumulation of ex-post evaluations, it is not clear yet whether emissions trading has effects to reduce emissions. Among those evaluations, recent analyses reveal that it may face risks of two types of carbon leakage in the power sector: i) leakage in power intensive industries which suffer from power price increases and ii) leakage within the sector to small generators exempted from the CO2 restriction, although it was previously recognized that domestic industry such as power sector is free from carbon leakage.
Finally, price signals in emissions trading fall short of theoretical function. Many countries and regions implement another policy measure besides emissions trading to encourage development of low carbon energy. Therefore, we can conclude that it works as a complementing measure rather than a major driving force for low carbon investment.

報告書年度

2016

発行年月

2017/03

報告者

担当氏名所属

若林 雅代

社会経済研究所 事業制度・経済分析領域

上野 貴弘

社会経済研究所 エネルギーシステム分析領域

キーワード

和文英文
温暖化対策 Climate Change Mitigation
カーボンプライシング Carbon Pricing
経済的手法 Economic Instruments
排出量取引 Emissions Trading
キャップアンドトレード Cap and Trade
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