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コバルト60が鉄筋に混入したアパート住民の健康影響調査

2004年3月21日から25日に行われた第14回環太平洋国際会議(PBNC)で、台湾の研究者から、誤ってコバルト60が混入した鉄筋を使って建てられたアパートの住民に対する健康影響調査の結果が報告されました。

約20年前(1982〜1984年)、廃棄されたコバルト60線源が偶然リサイクル鉄鋼に混入し、それが、台北市とその近郊のアパートを含む約1700の建物の鉄筋に使われてしまいました。およそ1万人の人々が、これらの建物に9〜20年間居住し、平均約400mSvの放射線を被曝しました。

調査結果によると、アパートの居住者のがん死亡率は、台湾の一般公衆の3パーセントにまで大幅に低下しました(図1)。 また、先天性奇形の発生率も、一般人の発生率のおよそ7パーセントに減少しました。

この発表は、同会議において大いに議論を呼び、米国エネルギー省(DOE)の仲介でカナダの疫学調査の専門家が研究に加わり、さらに詳しい調査が行われることになりました。

図1 一般公衆とアパート居住者のがん死亡率の比較

(出典:W.L. Chena他、「Effects of Cobalt-60 Exposure on Health of Taiwan Residents Suggest New Approach Needed in Radiation Protection」、Proceedings of  the 14th Pacific Basin Nuclear Conference, Honolulu, HI, Mar. 21-25, 2004)



その後2008年に台湾国立陽明大学による詳細な調査の結果が公表されました。
まず、一人ひとりの行動パターンから個人線量を求めた結果、平均の被ばく量は約48mGyでした(中央値6.3mGy、最大2,363mGy)。

被ばく量がわかった6,242人の中から、128人が追跡期間(1983〜2005年)中にがんと診断されました(台湾の国家がん登録で確認)。性別や年齢を考慮に入れてその放射線による影響を調査した結果、全てのがんの発症についてのリスクの上昇は観察されませんでしたが、以前の報告にあったような減少の傾向も観察されませんでした。さらに個々のがんを詳しく見たところ、白血病で100mGyあたり約1.2倍の有意なリスクの増加が観察されました。女性の乳がんでも有意ではありませんでしたが、100mGyあたり約1.1倍の増加傾向が観察されました。甲状腺がんの増加は観察されませんでした。

現段階ではまだ集団が若く(調査終了時点で平均36±18歳)、がんの症例数が少ないためはっきりした結果は得られていませんが、調査は現在も継続されていることから、今後、低線量・低線量率の放射線影響についての情報源となることが期待されます。(最終更新日:2011年6月8日)


汚染建物調査集団の調整済み危険率
がんの部位 症例数* 100mGyあたりの危険率** (90%信頼区間)
全がん 117 1.04 (0.97, 1.08)
白血病を除く全がん 111 1.02 (0.95, 1.08)
全固形がん 106 1.03 (0.96, 1.09)
部位別固形がん(5例以上のもの)
女性乳がん 17 1.12 (0.99, 1.21)
子宮頸がん 16 0.95 (0.64, 1.13)
肺がん 12 1.09 (0.96, 1.19)
甲状腺がん 8 0.81 (0.21, 1.15)
肝がん 8 1.03 (0.76, 1.19)
胃がん 8 1.10 (0.88, 1.25)
直腸がん 6 0.48 (0.02, 1.10)
CLLを除く白血病*** 6 1.19 (1.01, 1.31)

* ICRP90年勧告にある最小の潜伏期間よりも長期間経過後に発症した症例数

** 性別や年齢の影響を考慮済みの、被ばく量が100mGy増えた時にどのような割合でリスクが増加するか示した値。

*** CLL(慢性リンパ性白血病)を除いた白血病。CLLは放射線によって増えないことがわかっているため、通常それ以外の白血病について放射線の影響を調べる。

(出典:Hwang、他「Estimates of Relative Risks for Cancers in a Population after Prolonged Low-Dose-Rate Radiation Exposure: A Follow-up Assessment from 1983 to 2005」RADIATION RESEARCH誌170巻143-148ページ (2008)、表2に基づいて作成)

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