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2023.08.08

米国の気候変動世論の現状―党派間乖離の拡大続く 大統領選挙への影響も―

  • 気候変動

電気新聞グローバルアイ

 米大統領選挙まで、あと1年3か月となり、バイデン大統領への対抗馬となる共和党の候補者選びへの関心が高まってきた。年明けから順次実施される予備選に向けて、各候補の動きが活発になったためだ。

 現時点で圧倒的に人気なのは、トランプ前大統領である。ニューヨークタイムズ紙が7月下旬に共和党予備選の有権者を対象に実施した世論調査では、54%がトランプ前大統領に投票すると回答した。このままいけば、前回と同様、バイデン対トランプとなろう。

 米国は長年にわたり、政権交代のたびに気候変動対策を劇的に転換してきた。今回も政権交代すれば、バイデン政権が進めてきた気候変動対策は後戻りする。

 この振り子現象の背景には、米国民の気候変動への態度が党派間で大きく割れていることがある。気候変動に関する世論調査を長年実施しているギャラップ社の2023年3月の調査では、気候変動の原因について、民主党支持者の88%が「気候変動は人間活動によって引き起こされている」と回答したのに対して、共和党支持者の69%が「人間活動とは無関係な自然の変動に過ぎない」と回答した。

 党派間の乖離は年々拡大している。民主党支持者の間では、2017年以降、人間活動が原因との回答が9割弱で安定する一方、共和党支持者の間では、自然変動との回答割合が60%強からほぼ7割へと増加した。

 この状況で政権交代すれば、バイデン政権の気候変動対策の多くが見直されるのは自然と言えよう。

 しかし、個別施策への態度を見ると、少し異なる様相が浮かび上がる。ギャラップ社の2022年3月の調査では、共和党支持者であっても、8割近くが自宅への太陽光発電等の導入に対する税制優遇を支持し、6割以上が太陽光・風力・原子力による発電を推進する企業への税制優遇を是とした。

 これらの措置は、2022年8月に成立したインフレ抑制法(IRA)に含まれており、共和党支持者の間でも一定の賛同があることを踏まえれば、政権交代しても撤回されにくいと言える。

 他方、同じ調査で、電気自動車(EV)を購入する個人への税制優遇については、民主党支持者の82%が賛成したのに対し、共和党支持者の賛成は36%に留まった。共和党支持者はEVの購入意欲が低く、2023年3月の調査では支持者の7割がEVを買う意思が無いと回答した。EV優遇もIRAの柱であるが、政権交代すれば、標的とされよう。

 では、選挙のカギを握る無党派層はどうか。2023年の調査では、66%が気候変動は人間活動によって引き起こされていると回答した。両党支持者の中間よりも、民主党に寄っている。気候変動だけを見れば、バイデン大統領になびきやすい。

 しかし、今回、中道系の超党派団体が第三の候補擁立を模索しており、民主党のマンチン上院議員の出馬が、本人は明言を避けているものの、取り沙汰されている。同議員は気候変動対策について中道右派的で、化石燃料を含む全エネルギーを重視する。IRA、特にそのEV支援には最後まで慎重で、成立に際し、厳しい要件を盛り込んだが、共和党的な反対論者ではない。出馬しても当選は困難だが、気候変動を含め、論戦の構図を変え、選挙結果を左右する可能性がある。

電力中央研究所 社会経済研究所 上席研究員 上野 貴弘

電気新聞2023年8月8日掲載
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