社経研DP

2024.01.22

パリ協定に基づく第1回グローバルストックテイクの成果―COP28における決定とその解釈―

  • 気候変動

要約

 2023年12月13日、アラブ首長国連邦(ドバイ)で開催されていた国連気候変動枠組条約(UNFCCC)第28回締約国会議(COP28)において、「第1回グローバルストックテイクの成果」に関する決定が採択された。グローバルストックテイクは、パリ協定の目的と長期目標の達成に向けた、世界全体での進捗評価である。第1回グローバルストックテイクは、2021年11月に情報収集を開始し、COP28における決定の採択をもって完了した。「第1回グローバルストックテイクの成果」に関する決定は、2025年の次期NDCの提出に向けた、重要なステップである。
 「第1回グローバルストックテイクの成果」に関する決定では、全体的な進捗として、「パリ協定はほぼ全世界的に気候変動対策を活発にした」一方で、「締約国全体として、これまでのところ、パリ協定の目的と長期目標の達成に向けては順調ではない」と評価した。特に温度目標に対する進捗については、「パリ協定採択前のいくつかの見通しでは4°Cの温度上昇が予期されていたが、最新のNDCを全て実施した場合、2.1-2.8°Cの温度上昇となると予測される」と評価しつつ、「世界全体の温室効果ガス(GHG)排出量の経路は、パリ協定の温度目標とは未だに一致していない」と結論付けた。
 また決定には、全体的な進捗に加えて、世界全体のGHG排出量の水準(ピーク、削減率)、セクター別の記述、次期NDCに関する記述などが盛り込まれた。
 GHG排出のピークと削減率については、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書(AR6)で示された、「2020年から遅くとも2025年までにピークを迎える」「2019年比で、2030年までに43%、2035年までに60%削減」などの知見を参照している。ただし、ピークについては「各国の異なる事情に照らす」などの文言があり、全ての国に一様に当てはまらないことを明記した。
 セクター別の記述では、締約国に対して、「再エネ(設備容量)3倍」「省エネ(年間のエネルギー効率の改善率)2倍」「化石燃料からの移行」「ゼロ排出/低排出技術の加速(原子力、炭素回収・利用・貯留(CCUS)等)」など8項目について、世界全体での取り組みへの貢献を求めた。COPの決定において「化石燃料からの移行」に言及したのは初めてだが、原子力やCCUSに関する文言も過去に例がなく、注目に値する。ただし、あくまでも世界全体での取り組みとしての記述であり、国ごとの事情を踏まえて解釈する余地が残されている。また、争点となった「化石燃料からの移行(transition away)」についても、解釈の幅が大きい。
 次期NDCに関する記述は、大半がパリ協定や過去の決定の参照であり、新しい要素は「NDCの準備・実施に関する国内の体制を新設・強化することの招請」と「次期NDCを、経済全体の排出削減目標を含み、全てのガス・セクター・カテゴリーをカバーし、1.5°C目標と整合させることの奨励」の2つのみである。
 グローバルストックテイクの成果は、NDCの提出・更新に際して、締約国に情報を与えるものである。各国のNDC策定プロセスにおいて、COP28における決定がどのように解釈され、どのように/どの程度考慮されるのか、注目される。

免責事項

本ディスカッションペーパー中、意見にかかる部分は筆者のものであり、電力中央研究所その他の機関の見解を示すものではない。

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