概要
背景
電気事業の制度改革や、世界のエネルギー需給、カーボンニュートラルに向けた動向など、電気事業をめぐる環境は大きく変化し続けている。これらの変化の需要家への影響を計る指標の一つが電気料金であり、その推移や水準に関する諸外国との比較は、多くの人々の関心を集めている。
ただし、電気料金の国際比較にあたっては、換算レートや物価変動の処理など、留意すべき点が数多くあり、慎重に行う必要がある。
目的
本資料は、電力中央研究所報告Y11013「電気料金の国際比較と変動要因の解明-主要国の電気料金を巡る事情を踏まえて-」の、主要10ヶ国の電気料金の国際比較を2022年までアップデートし、長期の料金推移を確認するとともに、ロシアによるウクライナ侵略などを受けた2022年の燃料価格の高騰と電気料金の上昇の実態、さらには、需要家の負担軽減を企図した欧州主要国の支援策について概観する。また、換算レートの処理や、物価変動の考慮など、国際比較において留意すべき点について解説を加える。
主な成果
1. 長期推移の比較
日本で電力自由化への取り組みが本格的に始まった1995年から2022年までの、長期の電気料金の推移(図1a、図2a)や水準(図1b、図2b)を確認すると、1995年時点では家庭用・産業用ともに日本の電気料金水準は諸外国と比較して顕著に割高であったといえる。しかし、その後の燃料価格上昇を背景に欧州諸国の料金が上昇する一方で、日本の料金は東日本大震災が生じた2011年まで低下が続き、その結果、2010年時点で家庭用については中位に、産業用についても料金が高めの国々と遜色のない水準に至っている。また2022年には、家庭用・産業用ともに日本は中位となっている。日本を下回る国々は、国内のエネルギー資源に恵まれるなど、日本とは異なる事業環境を有する国々である。
2. 短期推移の比較
2021年以降の燃料価格の高騰、物価の上昇等により、火力電源を保有している欧州諸国を中心に電気料金が大きく上昇した。日本の料金も上昇したものの、デンマークやイタリア、英国、スペインはそれ以上の上昇に見舞われている(図3a、図4a)。付加価値税や再エネ賦課金などの公租公課の減免が行われた国もあるが、主に物価上昇を補う程度の規模であり、燃料価格の高騰分を補填する規模のものではない(図3b,c、図4b,c)。
3. 燃料価格高騰時の欧州の料金支援策
欧州では燃料価格高騰時の2022年前半頃までは、需要家の負担軽減策として主に電気料金の公租公課の減額が行われたが、2022年後半からは追加的な支援策が講じられた。支援の原資には、燃料価格の高騰を背景に大きな利益を得ていた化石燃料生産者や発電単価の低い再生可能エネルギー事業者等の利益が活用された。なお、2023年の後半より卸電力価格は低下し始め、これらの支援策は2023/2024年の冬季で終了する予定である。
キーワード
電気料金、国際比較、公租公課、燃料価格高騰、需要家負担軽減策