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2025.08.12

米・危険性認定の撤回提案―GHG排出規制を解体 気候の科学への挑戦も―

  • 気候変動

電気新聞グローバルアイ

 米国の環境保護庁(EPA)は7月29日に、温室効果ガス(GHG)の「危険性認定」の撤回を提案した。

 EPAはこれまで、従来の汚染物質を規制するために制定された大気浄化法の下で、気候変動という比較的新しい環境問題の原因物質であるGHGを規制してきた。危険性認定は、新たな物質を規制対象とする際の前提となるもので、EPAはオバマ政権期の2009年12月にGHGの危険性を認定した。その後、この認定に基づき、自動車、火力発電所、油ガス田などへのGHG排出規制を制定し、2017年からのトランプ政権1期目も含め、規制を継続してきた。

 ところが、トランプ大統領は2期目の就任日の大統領令で、危険性認定の再考を示唆した。EPAはこれを受け、3月に認定見直しに着手し、今回の撤回提案に至った。今後は、9月15日までパブリックコメントを実施し、最終決定へと進む。このまま撤回となれば、EPAはGHG排出への規制権限を実質的に失って、認定から派生した諸規制も維持困難となる。

 ここで注目すべきは、危険性認定を撤回する理由である。EPAは2つの理由を提示した。

 第一の理由は、条文解釈の変更である。

 オバマ政権期のEPAは、大気中のGHG濃度の増加は米国の一般公衆の健康と福祉を害するとしたうえで、米国の新車からの排出はその一因であると認定した。ここで新車が出てくるのは、危険性認定は法律上、新車規制のトリガーであり、その後に他の排出源にも規制を広げていくためである。平たく言えば、新車からの排出は大気中に混ざってGHG濃度を高めることで、危害をもたらすという論法である。

 これに対し、第2期トランプ政権のEPAは、大気浄化法が想定する危険は、新車の排出に対する「地域的・局所的な曝露」によって生じるものであり、排出が大気に混ざることで生じる地球規模の気候変動は該当しないと主張した。従来の汚染物質であれば、排出と危険の間に近接的な因果があるが、大気を介する気候変動の場合、時間・空間・数量のいずれも因果の隔たりが大きくなるとのロジックである。

 第二の理由は、科学的知見の見直しである。

 オバマ政権期の危険性認定は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)などが取りまとめた標準的な気候科学の知見に立脚し、気候変動は危険であると認定した。

 ところが、今回、トランプ政権は、エネルギー省の下で、標準的な見解に懐疑的な一部の学者による報告書を作成し、EPAがそれを参照する形で、危険性を認定するには情報が不十分と主張した。人為的な気候変動は否定しないものの、その悪影響は大きいとは言えず、むしろ大気中の二酸化炭素濃度の増加で植物育成が促され、農業生産が増加するといった議論を展開している。

 第二の理由は、第一の理由が通らなかった場合のバックアップの位置づけではあるが、標準的な科学への挑戦を含む内容であり、1期目には手を出さなかった極端な手段についに踏み込んだといえる。撤回決定後には、その合法性が訴訟で争われる。第一の理由が認められない場合、気候の科学を巡る論争が司法で問われることになる。

電気新聞2025年8月12日掲載
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