社経研DP

2025.12

原子力関連規制の効率化に関する諸外国の動向―英国・米国・カナダにおける取り組みの状況(2025年12月時点)―

  • エネルギー政策
  • 原子力

SERC Discussion Paper 25006

要約

 2025年、英国・米国・カナダの3か国において、原子力関連規制の効率化を目指す動きが相次いで始まった。本ディスカッションペーパーでは、3か国における取り組みの状況を明らかにした上で、共通する傾向やポイントについて考察した。調査・分析にあたっては、各国の取り組みの内容に加えて、一連のプロセス(主な経緯、規制機関の対応ぶり等)にも着目した。また、考察においては、安全規制やリスク管理の在り方に影響を与えるかどうかにも留意した。

 英国では、2025年2月6日、スターマー首相が原子力規制タスクフォース(NRT: Nuclear Regulatory Taskforce)を設置し、原子力関連規制全般の見直しを開始した。NRTは、規制機関を含む幅広いステークホルダーから意見照会を行いながら、8月11日に中間報告書を公表、11月24日に最終提言を公表した。最終提言では、複雑な原子力関連規制の簡素化や、リスク管理における費用や便益の考慮は十分であるか等の課題について、計47の提言が示された。原子力規制局(ONR: Office for Nuclear Regulation)は、NRTによる意見照会への回答に際して、現行の規制制度が良好に機能している点や、規制の独立性が重要である点等を強調している。また、2025年11月26日、英国政府(首相府)は「原子力分野の戦略的指針」を公表し、NRT最終提言について、2年以内に実施することを約束した。

 米国では、2025年5月23日、トランプ大統領が大統領令14300「原子力規制委員会の改革の指令」に署名した。大統領令14300では、原子力規制委員会(NRC: Nuclear Regulatory Commission)に対して、ミッションの更新(安全保障上の便益の考慮などを明記すること)や、規則等の見直し・改定(審査期間の上限の設定など)を求めた。2024年には連邦議会が「クリーンエネルギーのための多用途先進原子力の導入促進法(ADVANCE法)」を制定しており、その中でもNRCの効率向上の規定がある。NRCは、大統領令14300とADVANCE法への対応について、公式ウェブサイト上に特設ページを用意して情報共有しつつ、ミッションの更新や規制の効率化の進捗状況に関する報告書の公表などを行っている。

 カナダでは、2025年7月9日から、政府横断的に“Red Tape Review”(過度に複雑な規制の見直し)が始まった。カナダ原子力安全委員会(CNSC: Canadian Nuclear Safety Commission)も対象であり、9月8日に進捗報告を公表した。進捗報告では、これまでも継続して規制の近代化に取り組んできたことを強調しつつ、9項目について規制の近代化の取り組み状況を報告した。

 規制の効率化の目的は、3か国に共通して、エネルギー安全保障や経済安全保障、経済成長などの便益の追求である。ただし、プロセス(特に効率化を進める上での課題の示し方)は国ごとに異なる。英・米では政府から課題を提示しているのに対して、加では規制機関にレビューを指示し、規制機関自身が課題を特定している。

 これまでのところ、3か国の規制機関は、少なくとも表面上は前向きに、しかしあくまでも抑制的に対応しているように見える。現行の規制制度が機能していることや、規制の効率化に関してこれまでも取り組んできたことなどを強調している部分もある。

 規制の効率化の意味合いは様々であり、3か国に共通して見られたのは「複雑な規制の簡素化」と「規制のアプローチの見直し」である。各論では「審査期間の短縮」や「次世代原子炉等への対応」が共通していた。3か国における規制の効率化の取り組みはまだ途上だが、規制のアプローチの見直しが進む場合は、リスク管理の在り方そのものに影響しうる。

免責事項

本ディスカッションペーパーは広く意見やコメントを得るために公表するもので、意見にかかる部分は筆者のものであり、電力中央研究所または社会経済研究所の見解を示すものではない。

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