概要
背景
送配電事業における設備更新、脱炭素化、大規模負荷への対応は、主要国において共通する課題であり、わが国においても安定的な投資の継続を可能にする財務基盤の重要性が高まっている。こうした課題に対して、英国のレベニューキャップ制度では、需要家負担の抑制と投資促進の確保を重視し、資金調達可能性 (financeability) を検証したうえで、収入上限を確定している点に特徴がある。
目的
本資料では、英国のレベニューキャップ制度下の資金調達可能性に関する制度設計を整理・分析するとともに、わが国の第2規制期間 (2028年開始予定) の制度設計に向けて、一般送配電事業にとって必要な長期的な投資や持続的な財務基盤を確保するための制度的枠組みを示す。
主な成果
1.債権者および株主の観点を踏まえた資金調達可能性の検証
英国のレベニューキャップ制度では、送配電事業者の資金調達可能性を確保するため、規制当局であるOfgemは、債権者の観点を反映する財務指標と、株主の観点を反映する利益率の双方を用いて検証を行っている。債権者の観点では、格付会社が参照する送配電部門の財務指標を用いて、想定し得る格付が検証される。一方、株主の観点では、規制当局が事業報酬率の算定で設定する自己資本利益率 (ROE, Return On Equity) および規制期間中に実現し得る利益率 (RORE, Return On Regulatory Equity) の水準や変動幅を通じて、株主リターンの適切性が評価される注1。両者の観点は異なるが、資金調達可能性の維持において連関関係にあるため (図1) 、Ofgemは格付の参照指標と利益率を併用して制度設計の妥当性を検証している。
わが国のレベニューキャップ制度では、株主・債権者が重視する財務指標の検証が十分に行われておらず、送配電料金の抑制圧力が強い。送配電事業の継続に必要な財務基盤が悪化すれば、資本コストの上昇を通じて将来的に需要家負担が増加し得るほか、社会的に求められる送配電投資が停滞する可能性もある。債権者および株主の観点から資金調達可能性を検証する考え方は、こうした問題を回避するうえで有用と考えられる。
2. 格付会社の参照する財務指標
送配電事業者の資金調達可能性を債権者の観点から評価する際に、AICR (AdjustedInterest Cover Ratio)、 PMICR (Post-Maintenance Interest Cover Ratio) 注2および負債に対するCF(キャッシュフロー) が主要な参照指標として用いられる。しかしOfgemは、これらの指標を資金調達可能性の判断のための参照指標として位置づけており、特定の閾値を設けていない。これは、格付会社がこれらの財務指標に加え、規制環境等の定性的なリスク評価も含めて評価することや、格付基準を変更する可能性を踏まえ、制度設計においても特定の指標に対する過度な評価を避け、総合的に評価を行うべきとの考えに基づく。
財務指標の評価は、制度設計の合理性を確認するうえで有用と思われる。また、具体的な閾値を設けずに総合的に評価を行う方法も一案であるが、この場合、制度運用の透明性が懸念され得る。重視する財務指標については、目標水準や範囲を設定して検証を行えば、制度設計の透明性が高まり、財務の健全性を図りやすくなると考えられる。
3. 利益率の調整メカニズム (Return Adjustment Mechanisms, RAM)
英国のレベニューキャップ制度では、送配電事業者の利益率を調整する仕組みとして利益調整メカニズム (RAM) が導入されている (図2)。これは、規制期間中に実現する利益(RORE) が事前の想定水準から大きく乖離した場合に調整を行うものである。RAMは、収入上限の設定や制度設計が適切でなかった場合でも、規制期間終了を待たずに需要家および送配電事業者・投資家を保護する施策として位置づけられている。
RAMは、事前に設定される事業報酬率の算定で使用する自己資本利益率 (ROE) が基準値として機能するため、その有効性はROEの妥当性に依存する。このため、ROEが過度に低位または高位に設定されている場合、これを基準として期中に利益調整を行うことは適切でないと言える。わが国においてもRAMの導入は有用と考えられるが、この場合、基準値の設定を慎重に行う必要がある。
注1:本資料ではOfgemの定義にならい、ROEを規制当局が規制期間開始前に事業報酬率の算定時に設定する自己資本利益率 (自己資本コスト) として用い、ROREを規制期間中に実現し得る自己資本利益率として区別する。
注2:AICRは調整後インタレスト・カバレッジ比率、PMICRは修繕費の控除後のインタレスト・カバレッジ比率を表す。
キーワード
レベニューキャップ制度、資金調達可能性、自己資本利益率、格付、利益調整メカニズム