概要
背景
2026年2月28日に米国によるイランへの軍事攻撃が開始され、ホルムズ海峡の実質的閉鎖等の影響により、原油価格が高騰している。2026年3月末の時点で、一時1バレル120ドル程度まで上昇し、わが国においてもガソリンをはじめとする石油製品価格の押し上げに加えて、電気料金への波及も懸念されている。
また、2022年のエネルギー価格高騰時には、需要家の負担軽減のために政府による電気・ガス料金の補助が実施されており、今回の原油価格高騰に対しても、改めて政府補助が議論される可能性がある。
目的
本資料では、原油の市場価格(以下、原油価格)の変動が電気料金に与える影響について、原油価格が各燃料の輸入価格(以下、CIF)に影響を与えるまでのラグと、燃料費が電気料金に反映されるまでのラグに着目し、2026年3月の原油価格高騰が家庭用の電気料金 注1)に、いつ頃、どの程度の影響をもたらすのかを検証する。また、原油価格がさらに上昇した場合の影響についてもシミュレーションする。
さらに、電気料金に対する政府補助金の効果について過去の実態を振り返り、今後の補助金のあり方について教訓を得る。
主な成果
1. 原油価格と燃料輸入価格に関する統計モデル分析
原油価格と各燃料のCIFの関係性に着目すると、原油価格との相関が高いのは原油CIFとLNG-CIFであり、それぞれ原油価格との間にタイムラグが生じている。これらの実態に基づき、原油価格とそのラグ等を説明変数として、原油CIFとLNG-CIFを求める回帰モデルをそれぞれ構築した 注2)。
欧州の代表的な原油価格指標であるブレントと、原油CIF、LNG-CIFの過去約20年の月次データを用いて、ラグの範囲を変えた複数モデルを推定したところ、赤池情報量規準(AIC)やベイズ情報量規準(BIC)に基づいて選択したモデルでは、原油CIFは原油価格変動の1~4ヶ月後に、LNG-CIFは同4~8ヶ月後に、統計的に有意な影響が出ることが示された。これらに、CIFが燃料費調整額(燃調額)に反映されるまでのラグを考慮すると図1のように整理できる。
2. 原油価格が燃料輸入価格に与える影響
図2は、推計結果に基づいた原油CIF とLNG-CIFの今後の見通しである。モデル内で考慮されたラグの長さの違いにより、原油CIFの方が原油価格高騰の影響が比較的早めに出現し、短い期間で上昇する一方で、LNG-CIFについては遅れて影響が出始め、緩やかに長めの期間で上昇していくことがわかる。なお、図2では、原油CIFとLNG-CIFを対等に表示しているが、わが国の電源構成においてはLNG火力発電のシェアが高いため、燃料費全体への影響はLNG-CIFの方が大きいことが推察される。
3. 原油価格高騰の燃料費調整単価(燃調単価)への影響
推計した原油CIFとLNG-CIFを用いて 注3)、燃調単価の10電力会社平均値を求め、基準月(2026年1月)からの変化額を計算した。変化額を、原油価格変動の影響、為替変動の影響、燃調上限値超過分(電力会社負担分)の3要因に分解したものが図3である。
ブレントに基づいたシミュレーションでは、2027年3月には、基準月より2.1円/kWh程度上昇している。要因別に見ると、2026年9月頃までは、為替の円安影響(基準月の燃調計算時の為替である1ドル149円⇒シミュレーション上の想定値である1ドル160円)が大きい。それ以降は原油価格変動の影響が大きく、その主要因は、モデル上のラグの長さなどに鑑みると、LNG-CIFの上昇に基づくものであることが推察できる。
ブレントのさらなる高値ケースをシミュレーションしたところ、原油価格高値・為替円安のストレスケース(D)と、さらに石炭価格高値条件を加えたケース(E)において、基準月からの燃調増分は、それぞれ5円/kWh、9円/kWh 程度となった。またA~Eの全てのケースにおいて、3つの電力会社で燃調上限値を超過しており、これらの電力会社の負担分も大きくなっていることがわかる。
4. エネルギー価格高騰期の補助金の効果に関する考察
2023年以降に実施された政府補助の効果について振り返ったところ、2023年2月から支給された補助金は、経過措置料金・自由料金の両方の需要家の電気料金を抑制したものの、経過措置料金の需要家については、燃調上限値の超過分を電力会社が負担することによる料金抑制効果も出ていたことから、制度的・政策的補助の重複が発生していたと指摘できる(図4)。2023年に料金改定を行っていない電力会社については、今後も原油価格上昇が続けば上限値超過の可能性が高く、政府が補助を実施するのであれば、再び重複が生じないよう、燃調上限値撤廃などの対応が望まれる。
また、2024年以降の補助金については、電気料金単価に大きな変化がないタイミングで実施されていた。料金単価の急激な上昇に対する補助というより、夏期・冬期に電気使用量が増えることによる支払額増加に対する支援的要素が強い。本資料は料金単価に焦点を当てた分析であるが、補助金の効果を測るには、電気の使用量も踏まえた家計全体への電気料金の影響を考える必要がある。
注1)燃料費の影響が電気料金に明示的に組み込まれている「燃料費調整制度」に焦点を当て、これを採用する家庭用需要家向けの経過措置料金(10電力会社が提供)を対象とする。
注2)本資料では、時系列データが単位根である場合への対応と、2つの時系列データが共和分の関係にある場合への対応を可能とする「誤差修正モデル(Error Correction Model: ECM)」を採用した。単位根とは、過去のショックの影響が時間が経っても徐々に小さくならず、そのままの大きさで残り続ける性質、共和分は2つの時系列データが長期的に安定的な関係性を持つ性質をさす。
注3)石炭CIFについては、シミュレーション期間中は一定と仮定し、2026年4月の燃調額の計算に用いられた実績値(2025年11月~2026年1月の平均値)を利用(ストレスケースのEを除く)。
キーワード
イラン情勢、原油価格、CIF価格、燃料費調整単価、誤差修正モデル