研究資料

2019.04

2050年のCO2大規模削減を実現するための経済およびエネルギー・電力需給の定量分析

  • エネルギー政策
  • 気候変動

概要

背景

 2016年3月に閣議決定された地球温暖化対策計画では「2050年までに80%の温室効果ガスの排出削減を目指す」とされ、CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)等の新技術の活用が示されているが、経済や新技術を含むエネルギー需給の全体像についての定量的な検討は不十分である。

目的

 再生可能エネルギー(以下、再エネ)が最大規模で導入されるとした場合における、2050年のCO2排出量80%減を達成するエネルギー・電力需給の全体像および選択肢を示す。

主な成果

1. 2050年にCO2排出量80%減を実現するための前提とエネルギー・電力需給の姿

 経済成長率は、2030年までを長期エネルギー需給見通しの年率1.7%増と、その後2050年までを足元の経済の実力である潜在成長率や人口減少を反映して年率0.5%注1)増とそれぞれ想定し、以下の結果を得た。

1-1. エネルギー・電力需要

 2030年以降の最終エネルギー消費原単位の改善(省エネ)が、足元の20年間(1996~2015年)の平均値(年率1.3%)の約2倍となる、年率2.7%とならなければ、CO2排出量の80%減は達成されない。この時、2050年の電力需要は1.11兆kWhと2030~50年の20年間で約700億kWh増加し、CO2排出量は非電力部門で約1.82億t-CO2(2013年度比、約74%減)、電力部門で約6,500万t-CO2(同、約88%減)となる(図1)。

1-2. 電源構成

 上記CO2排出量を制約とし、再エネの出力制御をしない前提のもと、再エネポテンシャルが最大規模で実現する場合、ゼロエミッション電源比率は84%(そのうち原子力発電比率は18%:2,200億kWh)となり、残る16%はLNG火力となる(図2)。
この達成のためには、蓄電池の大量導入や、その際に生じる系統制約の解消が必要になる。さらに、前述の原子力の発電電力量を得るには、極めて高い設備利用率(86.7%)注2)を想定したとしても、2,900万kWという設備容量(表1の④以上)が必要となる。これは、60年運転を可とした場合に全ての原子力発電所が再稼働するだけでは足りず、新増設がなければ達成することができないことを意味する。

2. 設置許可申請済の原子力発電所のみでCO280%減達成に向けて取り得る選択肢

 2019年2月時点での設置許可申請済の原子力発電所のみ(表1の③以下)で、80%減を達成するために、以下の二つの方策を想定した。
(1)CCUSを実施する場合、2050年に国内で3,000万t-CO2を回収し、貯留・利用しなければならない。これは、鉄鋼や化学、窯業・土石といった素材系産業からのCO2排出量の約3分の1に相当し、非常に大規模なCCUSの実施が求められることになる。
(2)CCUSの新技術が活用できない場合、2030~50年の経済成長率がゼロ(2050年時点における実質GDPの約10%減となる約78兆円)となるほどに生産活動が停滞しなければならない。これは2017年における製造業の生産額の約3割程度となるほどの実質GDPの減少に相当する。

政策的含意

  蓄電池の大量導入により再エネの余剰電力を全て活用した場合に、CO2排出量をこれ以上増やさずに、CCU(Carbon dioxide Capture and Utilization)技術の一つであるメタネーションを大規模に利用するとすれば、水素の輸入もしくは水素製造のために用いられるゼロエミッション電源の上積みが必要となる。大規模なCCUSを実施できない場合、本分析では原子力の新増設が必要となることが示されており、2050年を射程とすれば、その是非を検討する時間的猶予は長くない。
第5次エネルギー基本計画では、こうした様々な選択肢について総力戦対応などと言及されているが、個々の選択肢を実現するための時間軸は異なる。したがって、各選択肢について、機を逸せずに政策意思決定を行うことが求められる。

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