研究資料

2019.11

再エネ海域利用法を考慮した洋上風力発電の利用対象海域に関する考察

  • エネルギー政策
  • 再生可能エネルギー

報告書番号:Y19502

尾羽 秀晃   永井 雄宇   豊永 晋輔   朝野 賢司  

概要

背 景

 2019年4月に再エネ海域利用法(注1)が施行され、内水を含む領海を対象に、洋上風力発電(以下、洋上風力)の長期占有のための手続き、および利害関係者との調整の枠組みが整備された。洋上風力の導入ポテンシャル(注2)は、環境省による調査(注3)に基づけば、我が国周辺の海域で約1,400 GWとされている。しかし、環境省調査と同法に基づく「促進区域」(注4)が対象とする海域は異なる。例えば、前者では陸地から30 km未満としているのに対し、後者は領海(22.2 km)を超えない範囲である。そのため、同法の施行を考慮し、洋上風力の利用対象となる海域面積を把握することが重要である。

目的

 本研究では、再エネ海域利用法が規定する促進区域の指定に関する各要件、および同法に向けた促進区域指定ガイドライン(注5)(以下、ガイドライン)で示されている考え方を踏まえ、促進区域の指定を受ける対象となる海域を「対象海域」と定義し、地理情報システム(GIS)を用いることで、その面積を明らかにする。その上で、対象海域の中から促進区域の指定を受ける際に、利害関係者との調整が必要と考えられる海域の特徴について、漁業、船舶、景観の観点から明らかにする。

主な成果

1.再エネ海域利用法・ガイドラインを参考にした洋上風力の対象海域の面積推計

 本研究では、領海・内水を対象に、再エネ海域利用法が規定する6つの要件(自然条件、航路等への支障、港湾との一体的利用、電線路との電気的接続、漁業への支障、他の法律により規定される水域との重複)を踏まえて、対象海域を抽出した(表1、図1)。例えば、自然条件の要件(第8条第1項第1号)については、ガイドライン上の記載を踏まえ、年間平均風速7.0 m/s以上の海域を対象とした(環境省調査は同6.5 m/s)。また、航路等への支障に関する要件(第8条第1項第2号)については、海上保安庁から取得した自動船舶識別装置(Automatic Identification System, AIS)の年間航行データ(主に中型船以上の船舶が該当)を基に、500 m四方内に31隻/月(1隻/日相当)以上が航行する海域を主要な航行ルートであると想定し、対象から除外した。
 以上により、領海・内水(約430,000 km2)から、洋上風力の対象海域を抽出すると、その面積は53,665 km2(領海・内水の約12%)と推計された(図2)。これは、環境省調査で洋上風力が開発可能とされた海域(141,276 km2)の約4割となる。
 また対象海域を、着床式風車の設置に適した水深60 m未満の海域と、浮体式風車の設置に適した水深60 m以深200 m未満の海域に分類すると、各海域面積は22,372 km2、および31,293 km2となる。

2.利害関係者との調整が必要な海域の特徴

 対象海域(53,665 km2)の中から促進区域の指定を受ける上では、利害関係者からの合意を得る必要がある。仮に対象海域の全てで合意が得られる仮定を置いた場合、北海のウィンドファームの配置(6.0 MW/km2)に基づき、面積を洋上風力の設備容量に換算すると、着床式風車134.2 GW、浮体式風車187.8 GWの合計322.0 GWとなる(表2)。
 しかし、実際には利害関係者からの合意を得ることが困難な海域があるため、設置可能となる洋上風力の設備容量を推計するためには、漁業や主要航行ルート外の船舶数、離岸距離などを考慮する必要がある。そこで、これらの観点から利害関係者との調整が必要な海域の特徴を評価した。
(1) 漁業:対象海域(53,665 km2)のうち、着床式風車については64%、浮体式風車については34%の海域で漁業権が設定されている。漁業権が設定されている海域においては、漁業権者の承諾なしの開発が困難であるため、実際に洋上風力が利用可能かは、漁業権者との調整に依存する(図4)。
(2) 主要航行ルート外の船舶: AIS搭載船が1-30隻/月航行している場合、週1便の定期運航船の航行ルートや、船舶の衝突防止時に航行されている海域である可能性があるため、海運業者との調整が必要になる場合がある。船舶通行量が少ない海域に洋上風力を設置するとした場合、船舶通行量の上限閾値に応じて促進区域の指定を受けられる海域は減少し、特に浮体式風車については半減する可能性がある(図5、 図6)。
(3) 景観:地方公共団体による洋上風力の適地評価や、海外での洋上風力の海域選定では、景観を理由に一定の離岸距離が考慮されている事例を踏まえると、陸地から近い場所では、地域住民との調整が必要になる場合がある。そのため、陸地から数km離れた場所のみに洋上風力を設置するとした場合、離岸距離の下限閾値に応じて促進区域の指定を受けられる海域は大きく減少する。(図7、図8)。

今後の展開

 対象海域の中から促進区域を指定する際の判断基準や、利害関係者との調整の在り方については、現段階では必ずしも明確になっていない。実際に洋上風力が利用可能となる海域面積を推計する上では、今後の議論や動向を踏まえた評価が必要とされる。

注1)海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(平成30年法律第89号)。
注2)エネルギーの採取・利用に関する種々の制約要因による設置の可否を考慮したエネルギー資源量と定義されており、「種々の制約要因に関する仮定条件」を設定した上で推計される。
注3)環境省「平成27年度再生可能エネルギーに関するゾーニング基礎情報整備報告書」を指す。同報告書では、離岸距離30 km以上の海域、年間平均風速6.5 m/s未満の海域、水深200 m以深の海域、自然公園の海域公園を開発不可条件とし、洋上風力の導入ポテンシャルを1,413 GWと推計している。
注4)再エネ海域利用法の下で、我が国の領海及び内水の海域のうち、同法内の基準に適合する一定の区域を「海洋再生可能エネルギー発電設備整備促進区域」として指定することができる旨が規定されている。
注5)資源エネルギー庁「海洋再生可能エネルギー発電設備整備促進区域指定ガイドライン」(2019年6月11日)。

キーワード

風力発電、洋上風力、導入ポテンシャル、再生可能エネルギー、エネルギー政策

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