![]() |
2026年2月17日 |
CBAMは輸入品の生産時の排出量に対して、EU ETSのオークション価格と連動するCBAM証書の納付義務を課す炭素関税的な措置である。前回はCBAMの課金対象となる輸入品の体化排出量(emissions embedded in goods)の算定方法について、実排出量とデフォルト値の選択に焦点を当てて解説した(上野 2026b)。今回はEUの排出量取引制度(EU ETS)や原産国のカーボンプライシング制度がCBAMの負担額の決定において、どのように考慮されるのかを整理したうえで、日本からEUへの輸出に対するCBAMのコストを試算する。
1. EU ETSの無償割当分の控除
EU ETSでは、産業部門の事業者に無償の排出枠が与えられており、CBAM対象製品の生産施設については、その無償枠を2026年から2034年にかけて段階的に削減していく。具体的には、もともとの無償枠の量に対して「CBAM係数」を乗じたものを割り当て、その係数を2026年は97.5%、2027年は95%、2028年は90%、2029年は77.5%、2030年は51.5%、2031年は39%、2032年は26.5%、2033年は14%と徐々に引き下げていき、2034年以降は無償枠をゼロとする。
他方、輸入品に対するCBAMのコストは、対象製品をEU域内で製造したならば受け取れる無償割当分だけ軽減される。具体的には前回取り上げた体化排出量から、「無償割当調整分」(free allocation adjustment)を差し引く。2025年12月に公表された無償割当調整分の計算に関する実施規則(※委員会実施規則2025/2620)によれば、
となる。ここで「CBAMベンチマーク」とは、EU ETSの無償枠の算定に用いるベンチマーク(※当該業種の上位10%水準の排出原単位 i))をCBAMの該当品目別の排出原単位に転換した値である。「業種間補正係数」は、EU ETSにおいて、ベンチマークに基づき算定された対象施設への無償枠の総量が制度全体で許容される上限を超過する場合に、その上限に収まるように一律削減するための係数である。2021年から2025年までは、この補正が不要であったことから係数は100%であった。「CBAM係数」は既に述べた通りであり、これら3つを掛け合わせた値は、当該品目1トンをEU域内で生産した際に受領できる無償枠の量となる ii)。
品目別に定められるCBAMベンチマークの値は原則としてEUにおける当該業種の上位10%水準に基づいており、前回取り上げた国別・品目別の平均値として定められるデフォルト値よりもかなり低い。たとえば、EUによる日本からの輸入額が大きい「鉄又は非合金鋼のフラットロール製品(幅が600mm以上のもの。熱間圧延をしたもので、かつ、クラッドし、めっきし又は被覆したものを除く)」(※CNコードは7208)では、CBAMベンチマークの値が1.37 tCO2/tであるのに対して、日本のデフォルト値は2.10 tCO2/tとなっている。
2. 第三国で支払った炭素価格の控除
CBAMの導入を決定した法律に相当する「CBAM規則」(Regulation (EU) 2023/956)は、第三国で支払った炭素価格分を考慮して、納付するCBAM証書の量を控除することを認めている。ただし、その炭素価格を軽減する還付やその他の補償がある場合、それらを考慮するとされている。具体的な計算方法に関する実施規則は本稿執筆時点において公表されておらず、2026年の早い段階に決定される予定である。
日本では、2026年度に開始するGX-ETS、2028年度に開始する化石燃料賦課金、以前から存在する温暖化対策税といった炭素価格が存在するが、このうち、価格水準が最も高くなる見込みであるのはGX-ETSである。GX-ETSでは産業部門に対する有償オークションが存在せず、排出枠はベンチマーク方式、またはグランドファザリング方式に基づいて無償で割り当てられ、CBAMの負担免除は、無償枠では足りなかった部分に適用されることになる。
CBAMの対象製品のうち、EUへの輸出額が相対的に大きいのは鉄鋼と鉄鋼製品であるが、前回取り上げたように、GX-ETSの高炉(上工程)のベンチマークでは、上位15%と下位15%のばらつきが4%程度に留まることから、業種内の下位企業であっても、排出量の大半が当面、無償枠でカバーされる iii)。したがって、CBAMの負担免除はごく限定的な範囲に留まるものと予想される iv)。
3. CBAMのコストの試算―鉄鋼の場合
これまでの解説に基づき、EUによる日本からの主たる輸入品に対して、CBAMのコストがどの程度の規模になるかを試算する。
まず、鉄鋼(第72類)の品目のうち、日本からの輸入金額が大きいのは、「鉄又は非合金鋼のフラットロール製品(幅が600mm以上のもの。熱間圧延をしたもので、かつ、クラッドし、めっきし又は被覆したものを除く)」(※CNコードは7208)、「鉄又は非合金鋼のフラットロール製品(幅が600mm以上のもの。冷間圧延をしたもので、かつ、クラッドし、めっきし又は被覆したものを除く)」(※CNコードは7209)、「けい素電気鋼のフラットロール製品(幅が600mm以上で、方向性を持たせたもの)」(※CNコードは7225 11)であり、これら3品目を試算の対象とする。
対象製品を1トン輸入する際のCBAMコストは、排出量算定をデフォルト値で行う場合、
である。「鉄又は非合金鋼のフラットロール製品(幅が600mm以上のもの。熱間圧延をしたもので、かつ、クラッドし、めっきし又は被覆したものを除く)」を例にとると、日本のデフォルト値は2.10 tCO2/t、CBAMベンチマークは1.37 tCO2/tであり、2026年はデフォルト値に上乗せするマークアップ率は10%、CBAM係数は97.5%である。そのうえで、業種間補正係数は2026年以降、総排出枠の削減ペースが速まることを考慮して90%、日本のGX-ETSの下では当該製品の全排出量が無償割当でカバーされており控除分がゼロであると想定すると、この品目を1トン輸入する際に課金対象となる排出量は、2.10×1.1 – 1.37×0.9×0.975 −0= 1.11 (tCO2/t)となる。この値にEU ETSの排出枠価格を乗じたものが製品1トンあたりのCBAM課金額となり、2026年1月下旬の価格である€85/tCO2を用いると、€94.2/tとなる。
ここでEU側の貿易統計に掲載されている最新(2024年)の当該品目の輸入額と輸入重量から重量当たりの単価を計算すると€650/tであり、CBAMのコストは輸入価格の14.5%(=94.17/650)となる。
表1は同様の計算を残りの品目に対しても行い、3品目分の結果を集約したものである。「けい素電気鋼のフラットロール製品(幅が600mm以上で、方向性を持たせたもの)」のデフォルト値は他の2品目の倍以上であるが、輸入単価も高いのでCBAMコストの割合は他の品目よりも小さい。
表1 鉄鋼3品目のEUによる日本からの輸入に対するCBAM課金(※2026年を想定)
| CNコード | 品目概要 | デフォルト値 (tCO2/t) |
CBAMベンチマーク (tCO2/t) |
製品1トンあたりの課金対象排出量 (tCO2/t) |
製品1トンあたりのCBAMコスト (€/t) |
輸入単価 (2024年、€/t) |
輸入単価に対するCBAMコストの割合 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 7208 | 鉄又は非合金鋼のフラットロール製品(幅が600mm以上のもの。熱間圧延をしたもので、かつ、クラッドし、めっきし又は被覆したものを除く) | 2.10 | 1.37 | 1.11 | 94.2 | 651 | 14.5% |
| 7209 | 鉄又は非合金鋼のフラットロール製品(幅が600mm以上のもの。冷間圧延をしたもので、かつ、クラッドし、めっきし又は被覆したものを除く。) | 2.14 | 1.45 | 1.08 | 91.6 | 705 | 13.0% |
| 7225 11 | けい素電気鋼のフラットロール製品(幅が600mm以上で、方向性を持たせたもの) | 4.62 | 1.779 | 3.52 | 299 | 2.772 | 10.8% |
※デフォルト値へのマークアップ率は30%、CBAM係数は0%、EU ETSの排出枠価格は€85/tCO2としている。
出典:委員会実施規則2025/2620、同2025/2621およびEU貿易統計に基づき筆者作成
表2は、対象品目へのEU ETSの無償割当が2034年にゼロになることを想定した同様の計算結果である。2034年のデフォルト値へのマークアップは30%、CBAM係数は0%であり、無償割当調整分はゼロとなるので業種間補正係数の想定は不要である。GX-ETSでは全排出量が引き続き無償割当でカバーされていると仮定し vi)、EU ETSの炭素価格も引き続き、€85/tCO2とした vii)。2034年までに、デフォルト値もCBAMベンチマークも引き下げられる可能性が高いが、減少幅を推定できないことから、現行の値を用いている。これらの前提のもとで計算すると、フラットロール製品の2品目は、CBAMコストの割合が輸入単価の3割以上となり、CBAMの影響が顕著となる。
もちろん、CBAMでは、域内生産品と他国からの輸入品に同等の炭素価格が発生することが前提であり、どちらに課される炭素コストも市場競争のなかで価格に転嫁されよう。ボリュームが大きい域内生産品の炭素コストが完全に価格転嫁されるとすれば、輸入品の排出原単位が域内生産品よりも低ければ、輸入品のCBAMコストは全額転嫁できることになり、反対に輸入品の原単位の方が高ければ、CBAMコストの転嫁は部分的なものに留まることになる。
表2 鉄鋼3品目のEUによる日本からの輸入に対するCBAM課金(※2034年を想定)
| CNコード | 品目概要 | デフォルト値 (tCO2/t) |
CBAMベンチマーク (tCO2/t) |
製品1トンあたりの課金対象排出量 (tCO2/t) |
製品1トンあたりのCBAMコスト (€/t) |
輸入単価 (2024年、€/t) |
輸入単価に対するCBAMコストの割合 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 7208 | 鉄又は非合金鋼のフラットロール製品(幅が600mm以上のもの。熱間圧延をしたもので、かつ、クラッドし、めっきし又は被覆したものを除く) | 2.10 | 1.37 | 2.73 | 232.1 | 651 | 35.6% |
| 7209 | 鉄又は非合金鋼のフラットロール製品(幅が600mm以上のもの。冷間圧延をしたもので、かつ、クラッドし、めっきし又は被覆したものを除く。) | 2.14 | 1.45 | 2.79 | 236.8 | 705 | 33.6% |
| 7225 11 | けい素電気鋼のフラットロール製品(幅が600mm以上で、方向性を持たせたもの) | 4.62 | 1.779 | 6.01 | 511 | 2.772 | 18.4% |
※デフォルト値へのマークアップ率は30%、CBAM係数は0%、EU ETSの排出枠価格は€85/tCO2としている。
出典:委員会実施規則2025/2620、同2025/2621およびEU貿易統計に基づき筆者作成
4. CBAMの負担額の試算―ねじ・ボルトの場合
続いて、鉄鋼製品(第73類)の品目を見ていく。EUによる日本からの輸入額が大きいのは、ねじ・ボルト(※CNコードは7318)であり、そのなかでの個別品目では、「鉄鋼製のねじ及びボルト(ナット又は座金が付いているかいないかを問わない。頭部を有するもの。ただし、すり割り、十字穴若しくは六角形の頭部を有するもの、木ねじ、セルフタッピングスクリュー、軌道の建設用資材の固定用のねじ及びボルト並びにスクリューフック及びスクリューリングを除く)」(※CNコードは7318 15 95)、「鉄鋼製のナット(ステンレス製以外。内径が12mm以下のもの。ただし、ブラインドリベットナット及びセルフロッキングナットを除く)」(※CNコードは7318 16 92)、「鉄鋼製のナット(ステンレス製を除く。内径が12mmを超えるもの。ただし、ブラインドリベットナット及びセルフロッキングナットを除く)」(※CNコードは7318 16 99)が大きい。
表3と表4は、これら3品目に対して、表1と表2と同様の計算を行った結果である。鉄鋼と比べると、製品1トンあたりのCBAMコストは高いものの、重量当たりの輸入価格がさらに高いことから、結果的にCBAMコストの割合が小さくなっている。一般化すれば、加工度の高い川下製品ほど、輸入品のCBAMコスト比率は小さくなるということである。
表3 ねじ・ボルト3品目のEUによる日本からの輸入に対するCBAM課金(※2026年を想定)
| CNコード | 品目概要 | デフォルト値 (tCO2/t) |
CBAMベンチマーク (tCO2/t) |
製品1トンあたりの課金対象排出量 (tCO2/t) |
製品1トンあたりのCBAMコスト (€/t) |
輸入単価 (2024年、€/t) |
輸入単価に対するCBAMコストの割合 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 7318 15 95 |
鉄鋼製のねじ及びボルト(ナット又は座金が付いているかいないかを問わない。頭部を有するもの。ただし、すり割り、十字穴若しくは六角形の頭部を有するもの、木ねじ、セルフタッピングスクリュー、軌道の建設用資材の固定用のねじ及びボルト並びにスクリューフック及びスクリューリングを除く) | 2.80 | 1.36 | 1.88 | 160.1 | 7.873 | 2.0% |
| 7318 16 92 |
鉄鋼製のナット(ステンレス製以外。内径が12mm以下のもの。ただし、ブラインドリベットナット及びセルフロッキングナットを除く) | 3.06 | 1.36 | 2.17 | 184.4 | 5.033 | 3.7% |
| 7318 16 99 |
鉄鋼製のナット(ステンレス製を除く。内径が12mmを超えるもの。ただし、ブラインドリベットナット及びセルフロッキングナットを除く) | 3.06 | 1.364 | 2.17 | 184 | 6.238 | 3.0% |
※デフォルト値へのマークアップ率は10%、CBAM係数は97.5%、業種間補正係数は90%、EU ETSの排出枠価格は€85/tCO2としている。
出典:委員会実施規則2025/2620、同2025/2621およびEU貿易統計に基づき筆者作成
表4 ねじ・ボルト3品目のEUによる日本からの輸入に対するCBAM課金(※2034年を想定)
| CNコード | 品目概要 | デフォルト値 (tCO2/t) |
CBAMベンチマーク (tCO2/t) |
製品1トンあたりの課金対象排出量 (tCO2/t) |
製品1トンあたりのCBAMコスト (€/t) |
輸入単価 (2024年、€/t) |
輸入単価に対するCBAMコストの割合 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 7318 15 95 |
鉄鋼製のねじ及びボルト(ナット又は座金が付いているかいないかを問わない。頭部を有するもの。ただし、すり割り、十字穴若しくは六角形の頭部を有するもの、木ねじ、セルフタッピングスクリュー、軌道の建設用資材の固定用のねじ及びボルト並びにスクリューフック及びスクリューリングを除く) | 2.80 | 1.36 | 3.64 | 309.1 | 7.873 | 3.9% |
| 7318 16 92 |
鉄鋼製のナット(ステンレス製以外。内径が12mm以下のもの。ただし、ブラインドリベットナット及びセルフロッキングナットを除く) | 3.06 | 1.36 | 3.98 | 338.1 | 5.033 | 6.7% |
| 7318 16 99 |
鉄鋼製のナット(ステンレス製を除く。内径が12mmを超えるもの。ただし、ブラインドリベットナット及びセルフロッキングナットを除く) | 3.06 | 1.364 | 3.98 | 338 | 6.238 | 5.4% |
※デフォルト値へのマークアップ率は30%、CBAM係数は0%、EU ETSの排出枠価格は€85/tCO2としている。
出典:委員会実施規則2025/2620、同2025/2621およびEU貿易統計に基づき筆者作成
5. まとめ
以上のように、鉄鋼については負担が相対的に小さい初期の段階においても、CBAMのコストが重量当たりの輸入単価の1割以上となっており、川下の鉄鋼製品よりも影響が大きく出やすい。ただ、炭素コストは輸入品だけではなく、EU ETSの下での無償割当を削られる域内生産品にも生じるものであり、そのコストはいずれ価格に転嫁される viii)。つまり、CBAMのコストは輸出側(この試算では日本企業)が一方的に吸収するものではなく、むしろEU経済への負担となる部分が大きい。もちろん、域内生産品にも輸入品にも炭素コストが生じるので、双方に排出削減のインセンティブが働く。
他方、川下製品の1つであるねじ・ボルトでは、CBAM係数がゼロというコストが最大となる状況においても、CBAMコストの割合は1割未満に留まる。今後、EUはCBAMの対象製品を変速機やトラックなどの「複合金属製品」に拡大する見込みであるが(上野 2026a)、そうした加工度の高い製品は重量当たりの単価が高く、その結果として、CBAMコストの割合は一層小さくなるだろう。CBAM対象製品の裾野が広がっても、経済的負担の増加は限定的なものに留まるかもしれない。
参考文献