
当研究所の経営層による寄稿やインタビュー記事等を紹介しています。
電力中央研究所 理事長 平岩 芳朗
原子力の開発加速
私は電気事業において設備投資計画や経営戦略、系統運用、制度設計やルール策定などの議論に携わる機会を多く経験し、現在は、社会経済分野を含め電気事業に係る研究開発を推進する研究機関を率いている。
電力の安定供給は社会経済の発展に不可欠であるが、電気事業の事業環境と電力システムの運用は大きく変化している。我が国の電力システムの課題を共有し、電力関連産業とその学術研究は、重要かつ、チャレンジングでやりがいがあるとのメッセージを次世代層にも送りたい。これが連載執筆にあたっての私の思いである。
世界の分断と対立が進み、直近では米国とイスラエルによるイラン攻撃の情勢から目が離せない状況だ。一方、我が国ではGXの進展やデータセンターの新設などにより長期的な電力需要の増加が見込まれ、エネルギー安全保障や安定供給の重要性と、経済安全保障の要請がかつてなく高まっている。脱炭素化の技術開発が継続し、特に安定供給と脱炭素に資する原子力発電は、次世代炉を含め世界的に積極的な開発が加速している。3月10日には、欧州連合(EU)のフォンデアライエン委員長が、国際原子力機関(IAEA)と仏国政府共催の原子力エネルギーサミットにおいて、「欧州が原子力に背を向けてきたのは戦略ミスだった。今後、次世代小型原子力等の開発を支援していく」と演説するなど、多くの国でエネルギー政策の軸が変化している。
エネルギー資源の乏しい我が国にとって、エネルギーをいかに安定的に確保するかは、太平洋戦争以前から二度の石油ショックを経て今日に至るまで宿命的課題であり、その要諦は歴史的にもウィンストン・チャーチルの言葉にあるように「多様性」、すなわち電源の多様化と燃料調達の分散にある。では、電気を安定的に顧客にお届けする仕組みはどうか。
19世紀末、130年ほど前の電気事業の黎明(れいめい)期。ハリウッド映画にもなった「エジソンの直流」VS「テスラの交流」の電流戦争を経て、交流送電方式が世界に広まり、その後の電力需要の増加と関連技術の発展と共に電力システムは拡大・進化してきた。
需給バランスの維持
ここで、電気の持つ普遍的な特殊性について述べたい。電力システムは、発電から需要設備まで全体が送配電網と電気的につながる大規模システムであり、エネルギー保存という電気物理の法則に基づき、電力系統と接続する全体が挙動する。送るという点で、電気はガスや水道とは本質的に異なる。ガスや水道は、導管を通じ物質を輸送する。導管やタンクなどの内部に大量の物質が存在し、バッファー機能を有するが、送電は物質の輸送ではなく、発電と需要の間で電磁界のエネルギーが送配電網により光の速度で伝搬する。電力システムが他のシステムと大きく異なる点は、入力と出力の瞬時性と、それによる瞬時瞬時の需給バランス維持の必要性である。電気の需要と供給は生活や産業・社会活動、気象などの状況に応じて常に変化するため、瞬時瞬時の需給(キロワット)のバランスを取るには、大変な努力と技術を要する。
安定運用面の質的変化
近年、電力システム改革(電力自由化)と出力変動性の高い再生可能エネルギーの導入拡大により、電力システムは安定運用面で大きな質的変化が生じている。
■電力自由化・市場化による変化
◎発送配電一貫体制から、法的分離された送配電部門と新規参入による多くの発電事業者・小売事業者などが安定供給面でもおのおのの役割と責任を果たす仕組みに変化
◎費用回収が不確かな電源などの投資が抑えられ、需給逼迫懸念の一つに
■系統安定化を担う電源の変化
火力発電など大型の同期電源は通常、系統運用者の指令に基づく出力調整が可能であるほか、慣性力・同期化力、周波数安定化のガバナーフリーや電圧調整の自端制御など、系統安定化機能を有する重要な電源である。
こうした火力電源は、太陽光発電など出力変動性の非同期(インバーター)電源の大量導入により系統連系量が減少し、また出力変化や起動停止の増加によりプラントのストレスが増加している。
日刊工業新聞 2026年4月20日掲載
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