
当研究所の経営層による寄稿やインタビュー記事等を紹介しています。
電力中央研究所 理事長 平岩 芳朗
電力の安定かつ効率的な供給と事故時の波及防止と早期復旧の観点から、電気事業者を中心に設備形成と運用対策、技術開発が進められてきた。瞬時瞬時の電力の需給バランスのズレは、周波数の変化として現れる。強雷などにより大規模に電源が脱落し周波数が大きく低下すると発電機の運転を安定に維持することが困難となり、保護装置により電力系統から切り離す。するとさらに供給力が減少し周波数が低下するといった連鎖により大規模停電に至る可能性がある。この対策として、周波数制御装置や系統安定化システムが構築され、最悪のブラックアウトを回避するため、周波数低下を検知し一部の需要を切り離す自動制御も行われる。ITやデータセンターなどの需要が拡大する中、電力品質の確保も重要である。電圧などが適正に維持されないと発電機やお客さま設備が正常に機能しない恐れがあり、最悪のケースでは系統解列する。
イベリア半島大規模停電
2025年4月、太陽光や風力など再生可能エネルギーを積極的に導入しているスペインを含むイベリア半島全域で大規模停電が発生し、26年3月に欧州送電系統運用者ネットワーク(ENTSO-E)による最終報告書が発表された。同停電に至る状況と対策は、我が国の電力システムの安定性維持を検討する際の貴重なレッスンとなる。同停電の原因は、電力系統での無効電力のアンバランスによる系統電圧の上昇に対し、適切な電圧制御ができず、連鎖的な電源などの停止により大停電に至った。同期発電機は端子電圧が一定となるよう界磁電流の制御により無効電力の供給・吸収を速やかに調整する自動電圧調整機能(AVR)を有するが、インバーター型電源(非同期電源)は、停電当日のスペインでは系統電圧に応じた無効電力の調整がなされなかった。同停電当日は軽負荷期の晴天。速い電圧調整能力を持つ火力などの電源の並列台数は停電直前は年初来の最小。系統連系電源の約7割を占める太陽光や風力発電などはインバーターの定力率運用であり、電圧調整能力は限定的であった。系統動揺への対応などに伴う電圧状況の悪化に対し、速い電圧調整能力を持つリソースが不足し、系統運用者は火力発電機の追加並列を決定したが、起動時間から停電発生には間に合わなかった。事前に「どのような能力がどれだけ必要か」を的確に評価し、十分な能力を確保し実運用で確実に利用できるようにすることが重要である。
系統連系要件を再確認
「電圧・周波数・同期安定性」の相互の影響も考慮する必要がある。基幹系統から配電系統まで電力システム全体でどのように調整能力を確保・提供するかという視点で各種リソースから適切に能力を提供することを要件化するグリッドコードの策定が重要である。
報告書は電圧管理を含め十分な運用マージンを確保する必要性を指摘している。分散型電源の挙動が影響を及ぼしたことも示された。1メガワット(メガは100万)未満の電源出力は系統運用者から直接監視できず、また、下位系統から無効電力が流入した。このため、分散型電源や自家消費に関する適切な把握と系統連系技術要件の再確認も必要である。
常時の高頻度計測を
我が国では軽負荷期昼間を中心に、火力発電機の並列台数減少や下位系統からの無効電力流入の増加により、基幹系統の電圧が上昇する傾向にある。同期発電機の進相運転や送電線停止などの運用対策や設備対策が行われているが、これらの運用対策には同期安定性や信頼度の低下のリスクがある。適切な系統電圧維持のため、高低圧連系の再生エネ(インバーター型電源)を含めリソースの電圧調整能力をより積極的に活用することも検討する必要がある。
設備からの能力提供や系統事故時などの挙動を迅速に把握・分析し系統安定性維持に必要な能力を適切に確保するためには、系統各所の電圧・周波数などの時刻同期のとれた常時の高頻度計測が有用である。再生エネ大量導入などを踏まえ、電力中央研究所は一般送配電事業者などと協同で、同期フェーザ計測装置(PMU)の設置と活用による運用高度化の検討を進めている。
日刊工業新聞 2026年5月25日掲載
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