
当研究所の経営層による寄稿やインタビュー記事等を紹介しています。
電力中央研究所 理事長 平岩 芳朗
歴史・過去から学び
未来の豊かな社会を支えるエネルギーはどのようなものか。価値観は変化・多様化するものの、大勢は「安全性を前提に安定供給と経済効率性、環境適合をバランスよく実現するもの」、いわゆるS+3Eに収れんするのではないか。
では未来のエネルギーのあり方はどのようなものか。
「将来の出来事をあらかじめ知ろうと思えば、過去に目を向けよ」(政治思想家 マキャベリ)
過去、エネルギーの安定供給をめぐる課題は、形を変えながら、安定的な状態と不安定な状態を繰り返してきた。特に、エネルギー資源の乏しい我が国にとって、エネルギーの安定確保は太平洋戦争以前から2度の石油ショックを経て今日に至るまで宿命的課題だ。
世界が比較的安定した時代にはグローバリズムが喧伝(けんでん)されたが、その後ロシアのウクライナ侵攻、中東情勢の緊迫化、中国の重要鉱物の輸出規制など、世界の分断が進み、エネルギーの安全保障と安定供給の重要性が再認識された。サプライチェーンを含む経済安全保障の要請もかつてなく高まっている。一方、エネルギーインフラの構築は、長期のリードタイムと巨額の投資を要するものである。
エネルギーは国家の存立基盤。安定供給確保は、経済社会の生命線であり、その要諦は多様性、すなわち電源の多様化と燃料調達の分散にある。このことを、我が国のエネルギーに関する基本的スタンスとして堅持していくことが肝要だ。
将来深刻化が懸念される課題への対応も重要だ。気候変動や自然災害へのレジリエンス確保、高度成長期に建設した大量の電力設備の更新、現場の労働力不足への対応と、AIの活用などがあるが、紙面の関係で詳細は割愛する。
過去からの学びとしてもう一つ挙げる。近年のドイツの政治経済や社会情勢を見ても思うのだが、特定の理念や政策目標を過度に重視した選択や特定の前提条件下で選択された社会システムが、長期を経て硬直化し、将来の脆弱(ぜいじゃく)性をもたらす可能性があるということだ。このため、この脆弱性に留意し、柔軟性のある選択肢の追求や不断の見直しが重要である。
不確実性に備える
社会が安全と豊かさを追求する中で、エネルギーに期待されることは多様化し、合意形成や対話は一層重要となる。米国でAI利用に不可欠なデータセンター建設をめぐり、地域住民などが反発しているが、より丁寧な情報発信と対話により緩和できる面があると思われる。
未来のエネルギーは、単にどの技術を選ぶのかという問題ではなく、豊かな社会を支えるために、どのような価値を実現し、どのリスクを低減し、どのような負担を受け入れるか、という問題と捉えている。これを考える上で、リスク評価の知見が必要となる。複雑で不確実な課題に対して、一つの正解を前提とすることはできない。リスク評価は解を自動的に決めるものではなく、選択肢と含意を比較するための共通言語である。
電力システムは、発電から需要設備まで送電網と電気的につながる大規模システムであり、電気物理の法則に基づき全体が挙動する。このため瞬時瞬時の需給バランス維持が非常に重要である。また、電気事故の影響も広範囲の需要者に及ぶため、電気設備の操作などに係るルールや給電指令の順守も非常に重要である。これらは電力システムの不変の常識といえる。
電力システムのコモンセンス
現在の制度は、発電、小売り、送配電など多くの関係者がおのおのの義務を履行、または協力することで電力システムが安定に維持できる仕組みである。将来、電力系統に、変動性再生可能エネルギーや蓄電池・EVなどの分散型エネルギーリソース(DER)が多数接続され、デマンドレスポンスやアグリゲーターなど多様な事業者が電力需給に関与する。電力システムは、これらの多くのプレーヤーが活用する共通基盤であり、その電力システムの安定的な運用に向けて、関係者が電力システムの常識(コモンセンス)について、共通認識を深めることが重要である。
日刊工業新聞『卓見異見』第6回(10月5日掲載)
※発行元の日刊工業新聞社の許可を得て、記事をHTML形式でご紹介します。