電力中央研究所

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電中研ニュース

電中研NEWS No.495
家庭用エアコン選定支援ツールの開発
-多様な選定条件を迅速に反映できるエアコン選定手法の改良-

需要家サービス

当所では生活者の多様な住まい方に適したエアコンを簡易に選定できる「家庭用エアコン選定支援ツール(以下、ツール)」を開発しています。従来、生活者がエアコンを購入する場合は、機種ごとに決まった畳数めやす(設置する部屋の広さ)に合わせて選定されてきました。しかし、畳数めやすによる選定は、部屋の冷暖房に求められる能力よりも過剰な性能の機器が選ばれる傾向にあり、効率低下による消費電力量およびCO2排出量増大が問題となっていました。これに対して本ツールでは、住宅の所在地域や断熱性能・部屋の広さ・エアコンの使用時間帯といった条件を入力することで、適切な容量のエアコンを選定することができます。

本ツールは2017年に当所ウェブサイトで公開以降、多くの方に活用されていますが、最新の高気密・高断熱住宅や様々な気候条件への対応等のご要望を受けており、これらを踏まえた改良が必要となっています。そこで、当所では多様な選定条件に対応しつつ、適切なエアコンを迅速に選定可能とする手法の開発を進めています。

注:https://criepi.denken.or.jp/asst/
(使い方はYouTube動画をご参照ください https://www.youtube.com/watch?v=45JdhQmCtzU)

エアコン選定条件の入力と選定結果の表示例

目次

1. 家庭用エアコン選定支援ツールの概要

2. 多様な選定条件に対応するためのツール改良

3. 年間の冷暖房消費電力量予測手法によるシミュレーション省略

●関連する報告書

1. 家庭用エアコン選定支援ツールの概要

日本の住宅では、室内の冷暖房のためエアコンは広く活用されています。住宅の高気密・高断熱化や燃焼暖房と比較した場合の安全性といった観点から、エアコンの普及率や暖房使用割合は今後も増加することが予想されます。一方、地球温暖化対策として、政府は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、カーボンニュートラルを目指すことを宣言しています。その一環で家庭部門においても省エネが強く求められており、家庭用エアコンの高効率利用による省エネ対策は、より社会的ニーズの高いものとなっています。そこで当所では、生活者の エアコン選定方法の実態について調査を行い、以下の3つの課題を抽出しました。

(1)生活者がエアコンを購入する際に用いられている畳数めやすは1964年当時の住宅における断熱仕様を元に決められており、その後は更新されていない。そのため、近年の高気密・高断熱化された住宅においては過剰な性能の機種が選ばれてしまい、効率低下により消費電力量・CO2排出量が増大するおそれがある。
(2)従来の選定方法では畳数めやすのみが重視されており、生活者のライフスタイルや選好(経済性や快適性など、何を重視するか)を考慮するための基準は定められていない。
(3)上記の課題がありつつも、カタログでの表記や販売時においては部屋の広さと一致する畳数めやすの機種を勧める傾向にあり、生活者が合理的かつ簡単に適正なエアコンを選定するための仕組みがない。

このような課題を踏まえて当所では、生活者の多様な住まい方を考慮しつつ、適切なエアコンを選定するツールを構築・提供しており(図1)、エアコン選定という視点からエアコン使用における省エネ促進と快適性の両立を目指してきました。

図1

図1 家庭用エアコン選定支援ツールの概要

本ツールではお住まいの地域や住宅の断熱等級、部屋の広さ、冷暖房の設定温度や運転パターンなどの条件を入力すると、ランキング形式でおすすめのエアコンを提示します。この結果は当所で開発した住宅用室内温熱環境設計ツールを用いた熱処理量の精緻なシミュレーションに基づいており、特定条件の組み合わせに対して事前に計算された結果をデータベース化した上で、入力条件に合致する(あるいは類似する)結果を使用します。

本ツールは2017年4月に当所ウェブサイト上で公開されており、誰でも利用可能です。2023年1月までに45万回以上も利用されていることから、エアコン選定の判断基準の一つとして広く活用されているといえます。

2. 多様な選定条件に対応するためのツール改良

エアコン選定条件の追加および変更

本ツールは2015年に開発され2017年より公開していますが、それ以降は更新されていないため最新の住宅性能やエアコンの冷暖房能力との差異が課題となっています。特に住宅性能は、2022年に国土交通省が既存の断熱等級を超える上位等級を創設するなど、今後も住宅の断熱性能は向上していくことが予想されます。一般的に、高気密・高断熱住宅ほどエアコンに求められる冷暖房能力は小さく、同じ性能のエアコンでもより広い部屋で使用できます。畳数めやすとの乖離が大きくなることから、高気密・高断熱住宅では、本ツールを用いて適切な容量のエアコンを選ぶことの重要性が特に高いといえます。

このような観点から現行ツールの改良を行う場合、ユーザが入力できるエアコン選定条件の拡充が必要です。現行ツールから追加・変更する条件について、主要なものを以下に例示します。

●対象地域:現行ツールは盛岡・仙台・東京・大阪・福岡の5地点が対象でしたが、より広範な気象条件の地域から選択できるようにします。
●断熱等級:現行ツールで対象としている等級2(省エネ基準)・等級3(新省エネ基準)・等級4(次世代省エネ基準)に加えて、より上位の等級である外皮性能基準G1・G2を追加します(2020年を見据えた住宅の高断熱化技術開発委員会(HEAT20)で提案)。
注:住宅の屋根や外壁、床、窓などの「外皮」と呼ばれる部分についての断熱や遮熱などの性能。
●冷暖房の設定温度:現行ツールではウェブアンケート調査に基づいて定めた冷暖房それぞれ3通りの設定温度を入力できますが、より多様な住まい方に対応するため1℃単位での入力を可能とします。
●エアコン機種:現行ツールで対象とする2012年発売モデル14機種と比較して、現在のエアコンは性能が向上し機能追加による価格変化も生じていることから、2021年発売モデルの16機種に更新します。

リアルタイムでの冷暖房負荷計算による多様な選定条件への対応

現行ツールでは、特定のエアコン選定条件の組み合わせに対して年間冷暖房負荷の事前計算(以下、事前計算)シミュレーションを行い、結果をデータベース化して利用しています。これは、現行ツール利用時にリアルタイムで計算をすると、シミュレーションの計算量が膨大となり、長い待ち時間が生じるだけでなく、Webサーバへの負荷が大きくなるためです。一方で、この事前計算に要するコストも大きいことから、選定条件を追加・変更することが困難という制約も存在していました。

そこで改良版ツールでは、多様な選定条件に対応することを目的として、事前計算することなくリアルタイムでの冷暖房負荷の計算を実行可能とするためのシミュレーション省略手法を開発しました。現行ツールと改良版ツールにおけるプロセスを図2に示します。改良版ツールではユーザがエアコン選定条件を入力後に冷暖房負荷計算を行い、その結果に基づくエアコン順位を出力します。これによって多様な選定条件に対応できるだけでなく、今後の更新も容易に行うことができます。 

図2

図2 現行ツールと改良版ツールそれぞれのプロセス(改良版での変更箇所を赤で記載)

3. 年間の冷暖房消費電力量予測手法によるシミュレーション省略

短期間の冷暖房負荷計算と重回帰分析による年間の冷暖房消費電力量の予測

現行ツールでは1年間のシミュレーションを行い、その冷暖房負荷計算結果から年間の冷暖房それぞれの消費電力量を算出し、エアコンの順位付けに使用しています。ツール改良にあたって開発したシミュレーション省略手法では、冷暖房それぞれ14日間のみを対象としたシミュレーションを行い、気象データ(外気温および日射量)を用いて重回帰分析により年間の冷暖房消費電力量を予測します(図3)。

このシミュレーション省略手法によって1回の選定に要する計算量を現行ツールの数十分の1とし、標準的な性能のコンピュータを用いた場合でも現実的な処理時間でエアコン選定をリアルタイムに行うことが可能となりました。また、この省略が選定結果に影響しないことを確認するための検証も実施し、省略を行わなかった場合とほぼ同等の、適切なエアコン順位を出力可能であることがわかりました。

今後は、本手法を用いた改良版ツールの実装およびウェブサイト上での公開に向けた検討を進めます。エアコン選定条件の入力画面も、より直感的にわかりやすいインタフェースとなるよう改良予定です。

図3

図3 重回帰分析による年間の冷暖房消費電力量予測の概要(冷房の場合)

●関連する報告書

担当研究員

服部 俊一/はっとり しゅんいち
グリッドイノベーション研究本部 ENIC研究部門 上席研究員
博士(工学)

安岡 絢子/やすおか あやこ
グリッドイノベーション研究本部 ENIC研究部門 主任研究員
博士(学術)

2023年7月掲載

Copyright (C) Central Research Institute of Electric Power Industry