電力中央研究所

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電気新聞ゼミナール

電気新聞ゼミナール(233)
大寒波襲来によるテキサス州大停電の回避策は何か?

2021年2月中旬、大寒波により、米国テキサス州では輪番停電を実施するほどの電力供給不足が発生した。テキサス州議会は2月末から公聴会を開催し、停電発生原因の調査を開始した。筆者は長年テキサス電力信頼度評議会(ERCOT)のアンシラリーサービスの制度、デマンドレスポンス(DR)に関する制度と実例の変遷を追っている。それらの知見も踏まえ、現時点で判明している州議会調査内容を元に、今回のテキサス州の輪番停電の示唆するところを論考してみたい。

輪番停電の状況

2月第3週は、州内の発電所の総容量91GW中、最大容量39GWが稼働できず、さらには他州との連系線が1GW程度と大きくないため、71GWあった需要を賄うことができなくなり、輪番停電は最大400万台超のメータが対象となった。

2つの主要な原因

寒波により稼働不能に陥った発電所の合計容量とその原因を時系列で図に示す。稼働できなくなった発電機は、ガス火力18GW、風力(最大)11GW、石炭火力5GWであり、その主な原因は、発電設備の凍結とガスパイプライン(以下、PL)によるガス供給の不調の2つである。

図

4月22日時点で判明した、停止した発電機の容量とその停止理由
出典:4月27日テキサス州電力信頼度評議会ERCOTのプレスリリースを基に筆者が作成 

発電所設備の凍結

発電所設備の停止要因としては、主に設備凍結によるものが多く、火力発電では計測器内流体の凍結、水配管の凍結、弁の不具合等である。州内のこれまでの主な厳気象対策はハリケーンと熱波への備えが中心であったが、2011年には寒波で7時間程度の輪番停電を実施しており、その後、北米電力信頼度協議会により発電所の寒波対策が求められていた。今回の事象により、発電所は寒波対策を改めて強く求められるだろう。

PLによる天然ガス供給の不調

図中の燃料制約とは、PLの燃料供給の不調が主な事象であるが、この主な要因としては、PLにガスを供給するための設備が輪番停電の対象設備に含まれて稼働できなかったこと、ほとんどのガス供給設備は非常用電源を所有していないことが挙げられる。

ガス供給設備は予備力DRの対象設備でもあり、これまでも熱波などの理由で、度々予備力は発動されていたが、特に今回のような燃料不足には及ばなかった。平常時はテキサス州から他州にガスを送るPLであるが、寒波時のような、州内外のガス需要が増加する条件下では、輪番停電対象にガス供給設備が含まれると、供給量が不足する事態に陥ることが明らかになった。このリスクは2011年に一度指摘されているものの、今回の寒波は特に大規模だったため、輪番停電の長期化・大規模化につながる要因となった。

回避策と示唆

燃料制約への対策としては、寒波の際にはガス供給設備を輪番停電と予備力の対象から外す、もしくは設備内に非常用電源を設置することである。どちらにしても、州のガス事業の規制機関RRCと、電力事業の規制機関PUCTの協力、もしくは両事業を同時に監視・評価する規制機関の存在が必要である。

地球温暖化の進行により、今回のような極端な気象現象は今後増加すると予想されている。日本でも厳気象の想定内容を精査しておくことの重要性を示唆している。

著者

坂東 茂/ばんどう しげる
電力中央研究所 エネルギーイノベーション創発センター 配電システムユニット(兼)社会経済研究所 エネルギーシステム分析領域 上席研究員。
2010年入所、専門はエネルギーシステム分析。博士(環境学)。

電気新聞 2021年5月19日掲載

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