電力中央研究所

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電気新聞ゼミナール

電気新聞ゼミナール(249)
原子力関係事業者と研究機関の連携を進めるには?

原子力委員会は、「原子力利用の基本的考え方」(平成29年7月20日原子力委員会)および「原子力利用の基本的考え方」のフォローアップ~原子力関係組織の連携・協働の立上げ~(平成30年4月11日原子力委員会)のなかで、原子力関係事業者と研究機関の連携・協働の推進を提言した。これを受けて、軽水炉燃料の研究開発の分野において、原子力関係事業者と研究機関の連携と協働を行う場を構築し、科学的知見や知識の収集・体系化・共有による厚い知識基盤の構築を進めることを目的として、2018年10月に「燃料プラットフォーム」を電中研に設置した。現在、フェーズ1に続いてフェーズ2(2020~2022年度)の活動を進めている。

燃料プラットフォームの構成と概要

燃料プラットフォームの委員12名は、電力会社および燃料製造事業者等の原子力関係事業者および原子力機構や電中研等の研究機関から選任され、調査、整理、検討を分担して実施している。原子力関係事業者および研究機関に加えて、内閣府原子力政策担当室、経済産業省資源エネルギー庁、電気事業連合会他の関係者約40名がオブザーバとして参加し、関連情報や検討結果を共有している。燃料プラットフォームの活動の範囲は、軽水炉燃料の設計と製造、燃料と被覆管の照射挙動、過渡時・事故時のふるまい、輸送と貯蔵、モデリングとシミュレーションを含む軽水炉燃料の研究開発の分野とし、これらと関係の深い熱水力、原子炉物理、高速炉燃料等との関連にも留意している。主な活動内容は、①原子力関係事業者のニーズ、国内外で利用可能な研究開発設備、世界の研究開発動向などの調査と整理、②研究開発課題の摘出と整理、③各課題の解決方策の検討と各課題解決に必要な基盤技術と研究開発設備等の明確化などである。これらの活動を通じて得られる情報の共有も重要である。

フェーズ1の成果

フェーズ1では、原子力規制庁・原子力機構・電中研・電力会社・燃料メーカー・大学における研究開発の状況、経産省・文科省による研究開発事業、最近10年のIAEAおよびOECD/NEAにおける軽水炉燃料関連の活動と報告書、最近10年の国際会議における発表論文の動向などを調査し、委員とオブザーバで共有した。これらの調査結果を踏まえて摘出した研究開発課題について、産業界の立場から重要度が高く、研究開発の重要性が高い課題を検討した。その結果、燃料の高効率利用の観点からは被覆管材料の改良・5%超濃縮度燃料開発・高燃焼度燃料の挙動評価など、安全性と信頼性の向上の観点からは過渡時および事故時の燃料挙動解明・事故耐性燃料の開発など、使用済燃料の長期乾式貯蔵への備えの観点からは燃料長期健全性実証・高燃焼度MOX燃料貯蔵技術などの課題が摘出された。フェーズ1の活動の成果報告書は、令和2年度第31回原子力委員会定例会議の参考資料として公開されている。

フェーズ2の状況

現在はフェーズ2の活動として、フェーズ1で摘出した研究開発課題について、国内外の研究開発状況の調査とそれらの充足性の分析を進めている。並行して、IAEAおよびOECD/NEAにおける燃料関連の研究開発情報の共有も進めている。今後は、研究開発課題の解決に向けた取組みの優先順位付けやロードマップの検討などを行っていく予定である。また、各機関の若手のプラットフォーム活動への参加を通じて、人材育成の効果も狙っている。

今後の期待

2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、安全性の確保を前提とした原子力の継続的利用が重要であり、軽水炉燃料には一層の安全性・信頼性・経済性の向上が求められる。一方、燃料の研究開発に必要な試験用原子炉や照射後試験などの施設は、老朽化や運転資金不足などの理由により国内外で年々その数が減っており、それらの効率的な利用が重要となっている。こうした状況の中で、原子力関係事業者と研究機関の連携と協働を行う場としての燃料プラットフォームの活動は、事業者のニーズに沿った効率的な研究開発の方向付けに有効である。加えて、研究機関にとっては新たな研究テーマの発掘にもつながる。今後は、原子力の他の分野においても事業者と研究機関の連携の場としての「プラットフォーム」の活動が広がることを期待したい。

著者

尾形 孝成/おがた たかなり
電力中央研究所 エネルギートランスフォーメーション研究本部 研究参事
専門は核燃料工学、工学博士。

電気新聞 2022年1月5日掲載

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