電力中央研究所

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電気新聞ゼミナール

電気新聞ゼミナール(250)
電力デジタル化 設備の点検や診断の高度化に向けた画像取得とは?

昨今、電力のデジタルトランスフォーメーション事例として、画像を使った設備診断などを見聞きすることが多くなった。いずれも目的達成に必要な画像取得に様々な工夫を凝らしている様子がうかがえる。そこで、ここでは他業種も含め画像取得の取り組みに着目し、代表的な事例を紹介してみたい。

地域住民の協力

まずは、地域住民の協力を得て画像を取得している2事例を示す。

1件目は、知名度の高い「ウェザーリポート」である。空の様子を撮影し、一言コメントを添えて専用のウェブサイトに画像投稿する枠組みである。全国から寄せられる投稿画像が天気予報の精度向上に役立つだけでなく、投稿者も社会に貢献している意識が持てる望ましい枠組みとなっている。

2件目は、渋谷区内約1万戸の水道マンホール画像を3日間で集めた「鉄とコンクリートの守り人」の事例である。スマホの地図に位置が示されるマンホールを撮影し投稿することで得られるポイントを競い合うゲームである。集めた画像は、マンホールの点検や更新に活用する計画である。本ゲームサイトに『我々は市民の方々に社会インフラサービスを消費するだけでなく、社会インフラを守る担い手になってもらいたいという思いから製作が始まりました。』と記されている。このように社会的な課題などの解決に向けてゲームの考え方を導入することをゲーミフィケーションと呼ぶ。

組織同士の協力

次に組織による画像取得例を、電柱点検を題材に、昨今の業界動向を踏まえつつ紹介する。

国内の電柱は合計約3,600万本あり、その3分の2を電力会社、残りを通信会社が管理している。現在のペースで電柱を更新できたと仮定しても、今後、経年電柱が大幅に増えることは避けられない。さらに悪いことに、少子高齢化による労働人口の減少で、従来の頻度で現場点検を続けることが徐々に難しくなると予想される。本課題は電気事業も通信事業も同様である。

このような背景のもと、最近の電気新聞の記事『東北電力、NTTとインフラ連携 全国初、維持・管理など』(11月29日)や『北海道電力 NTT東と連携協定』(12月2日)に、インフラ設備の効率的な維持管理に向け、電気事業者と通信事業者の協力関係を強化する取り組みが紹介されている。膨大な数の電柱を相互利用しているため、合理的な流れであろう。

既に通信事業者では車で走行しながら路上の設備を三次元計測し形状データを取得するモバイルマッピングシステムや、車から撮影した画像を使い事務所で現地の様子を確認しながら設備形状を計測できるシステムを開発し設備点検に活用されている。

同じような画像取得システムが、道路保守や自動運転などを手掛ける業界でも開発され活用され始めている。今後、このようなシステムで取得した画像を使い、電柱をはじめ配電設備の点検業務のデジタル化が電気事業でも進むものと期待したい。

今後の方向性

ただし、現在のところ電柱など特定設備の撮影だけを対象に、広い国土を満遍なく車で撮影して回ることは、費用対効果の観点から難しい。今後、自治体や他業界との協力関係を深め、走行車で取得した画像やデータで多様な社会インフラ設備の点検を可能にする取り組みや制度設計、さらにはそれらの基礎となる研究の促進が必要になると考えられる。

特に、電柱のひび割れは、路上から死角になり撮影できない部分にも発生する。つまり、ひび割れ撮影は徒歩で電柱を見て回らなければならない課題が残っている。そのような課題に対し、ひび割れが発生している可能性の高い電柱を絞り込む技術を開発し、冒頭に紹介したような地域住民の協力を得る枠組みを提案すれば効率的にひび割れ画像を取得できるはずである。

画像取得のその後

ここで紹介したような様々な工夫により画像データが取得可能となる。これにより、その先の画像処理で信頼性の高い設備点検や診断を実現できる。我々のグループでも、将来を見据え、画像処理による点検や診断の研究開発を進めており、事業者による設備管理のデジタル化を今後も技術面から支援してゆく。

著者

中島 慶人/なかじま ちかひと
電力中央研究所 グリッドイノベーション研究本部 上席研究員
1989年度入所、専門は画像処理、博士(情報学)。

電気新聞 2022年1月19日掲載

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