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電気新聞ゼミナール

電気新聞ゼミナール(259)
カーボンリサイクルとはどんな技術?どこが課題?(上)

2020年10月菅総理大臣の所信表明「2050年カーボンニュートラル(CN)、脱炭素社会の実現」を受け、自治体、業界レベルで実現に向けたロードマップが策定、公表されている。電気事業連合会においても、2021年5月にCN実現に向けた基本的な考え、取り組みの方向性、取り組みに必要な条件・政策が発表されている。

電気事業および他部門でのCN実現に向けた取り組み

電気事業におけるCNへの取り組みは、図に示す通り、供給側では電源の脱炭素化を目指す方向として、再生可能エネルギーの主力電源化、原子力の再稼働、ゼロエミッション火力の推進が謳われており、カーボンリサイクル(CR)は、このゼロエミ火力に分類される技術となっている。一方、需要側での脱炭素化としては、脱炭素化電源による電化推進が謳われている。なお、他部門における電化が困難な領域(例えば、産業部門での製造プロセスにおける原料、高温熱源)では、脱炭素燃料利用が想定されており、需要家側での電化、脱炭素燃料という流れは、運輸部門においても、電気自動車、バイオジェット燃料といった取り組みに見ることができる。

図

ゼロエミ火力でのCRの位置付け、課題

ゼロエミ火力に向けては、脱炭素燃料である水素・アンモニアの利用、化石燃料+CO2削減技術(CCUS:CO2回収・利用・貯留)が、将来技術として有望視されており、CRはCCUSにおける利用技術(CCU)の一つに位置付けられている。このためCCUS/CRは、CO2の輸送・貯留インフラ環境が整備されることを前提に、CO2の分離・回収を行い、CO2の有効利用を図る建て付けとなっている。また、CCUにおいては、CO2削減の便益を排出・回収側と利用側でどのように配分するかの議論も必要となる。

CCUS/CRの候補技術

CCUS/CR実用化に向けては今後、新たな技術が必要となるが、CCU技術としては現状、図に示す通り、大別して3つの利用が想定されている。その一つは、『CR』であるが、それ以外には、生産効率の低下した石油井戸に回収したCO2を圧入し、原油を押し出し、回収する『石油増進回収(EOR)』、溶接、ドライアイス等の『直接利用』が挙げられる。CRに関しては、CO2を資源と捉え、化学品、燃料、鉱物(CO2を炭酸塩鉱物として固定し、土木・建築資材に活用)へと再利用し、大気中へのCO2排出を抑制する技術と定義されており、右記以外にもネガティブ・エミッションと呼ばれるCRもある。ネガティブ・エミッションとは、大気中のCO2を吸収する概念であり、海草藻場、マングローブ林などの海洋生態系に取り込まれる炭素(ブルーカーボン)、CNと見なされるバイオマス燃料を燃やした際に発生するCO2を回収・貯留するBECCSなどが挙げられる。このようにCCUS/CRの候補技術は多岐にわたるが、各技術の適性などについては今後、精査が必要である。次回では、CRにおける化学品、燃料転換に焦点を当て、CO2利用の流れ、水素との関連、トランジション期での課題等について述べる。

著者

森田 寛/もりた ひろし
電力中央研究所 エネルギートランスフォーメーション研究本部 副研究参事
1992年度入所、専門は燃料電池工学、博士(工学)。

電気新聞 2022年6月8日掲載

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