電力中央研究所

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電気新聞ゼミナール

電気新聞ゼミナール(260)
カーボンリサイクルとはどんな技術?どこが課題?(下)

前回は火力分野におけるカーボンリサイクル(CR)の位置付け・課題、候補技術について述べたが、今回はCRにおける化学品、燃料転換に焦点を当て、その概要、課題について述べる。また、地球環境保全の点から、近年注目されつつある炭素以外の物質循環についても言及する。

化学品、燃料転換におけるCO2利用

CRにおける化学品、燃料転換におけるCO2利用のフロー図を示す。CRにおいては、CO2と水素(H2)を出発原料として、あらゆる化学品、燃料合成に繋がる合成ガス(CO+H2)、メタノール、エタノール製造が、市場規模の大きさも踏まえ、有望とされており、これらの物質以降(図中でのベンゼン、エチレン等)への転換技術は、ある程度確立済みとされている。このため合成ガス、メタノール等を得ることが重要となるが、CO2から合成するには多くのエネルギーを要する。よって、CRによる化学品、燃料転換をCO2削減の点から意味あるものにするには、ライフサイクルアセスメント(LCA)視点での分析・検証が必要となる。

図

CO2利用における前提、課題

LCA視点に立てば、CO2フロー全体を俯瞰した熱・物質最適化、標準・規格化が重要であり、以下に示す前提、課題を克服していく必要がある。①CO2分離・回収の低コスト化、②大量かつ安価なCO2フリー水素の確保、③反応プロセスに要する電力の脱炭素化、④反応プロセス自体の省エネ化。④に関しては、フィッシャー・トロプシュ(FT)反応に代表される合成反応は一般に、高温(200℃以上)高圧(10気圧以上)であり、低コスト化の観点からも、反応プロセスの低温・低圧化が望まれる。特に低温化は、化学プラントにおける構成部材の選択肢拡大、起動・停止の制御性向上にも繋がるため、これに寄与する新たな触媒、膜分離などを組み込んだ新規プロセスの開発が望まれる。①②に関しては、短期間での実現は困難と思われ、トランジション期では、「⑤天然ガス由来のメタンを用いて合成ガス等の製造プロセスを確立しつつ、徐々にCO2の原料利用を進めるべき」との意見もある。この点は、CR実現に向けた議論として、工学的なLCA視点とインセンティブとしての制度的な標準・規格化視点でのすり合わせが必要である。なお、天然ガスメタンの他に、廃プラ、廃ゴムなどのリサイクルを強化し、その廃材を用いて、ガス化による合成ガス、熱分解によるエチレン、プロピレン等を得るケミカルリサイクルもCRにおける一つの方向性であり、当所でもこれらの技術に取り組んでいる。

持続可能な開発目標(SDGs)における物質循環

2015年9月国連サミットでの「持続可能な開発のための2030アジェンダ」を受け、各国で循環型社会の構築に向けた政策等が発表されており、CR、水素もこの流れに沿った技術開発である。地球上での物資循環という点では、炭素、水素に次いで近年、窒素(N)も国際的に着目されており、無害化・大気放出される反応性窒素(アンモニア、窒素酸化物など)を資源として循環利用する認識が高まりつつある。こちらも今後、注視すべき動向と思われる。

著者

森田 寛/もりた ひろし
電力中央研究所 エネルギートランスフォーメーション研究本部 副研究参事
1992年度入所、専門は燃料電池工学、博士(工学)。

電気新聞 2022年6月15日掲載

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