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電気新聞ゼミナール

電気新聞ゼミナール(261)
なぜヒートポンプの熱源を再生可能エネルギーとしてカウントすることが重要なのか?

ヒートポンプは、カーボンニュートラルに向けた対策の中で優先順位が高い、高効率な電化技術として世界的に認識され始めた。一方、日本国内では省エネルギー技術としてしか認識されていないのが現状で、再生可能エネルギー(再エネ)の利用促進やエネルギー自給率の向上に寄与することが「見える化」されていない。

欧州連合(EU)では、ヒートポンプの熱源として利用する大気熱等を再エネ量として算定し、一次エネルギー自給率にも反映させている。そのため、ロシアのウクライナ侵攻を受け、今年3月に国際エネルギー機関が発行した「EUのロシア産天然ガスへの依存を減らすための10項目計画」の中でも、ガス燃焼器からヒートポンプへの転換を重要な行動計画に掲げている。

本稿では、EU再エネ指令の動向を紹介するとともに、日本でも欧州と同様に、ヒートポンプが利用する再エネ量を算定し、電力分野だけでなく熱分野の再エネ利用を促進していくことの重要性とその算定方法の課題について解説する。

EU再エネ指令の動向

ヒートポンプの熱源に利用する大気熱や地中熱、河川・海水熱が太陽エネルギー由来であることから、欧州では2009年の再エネ指令においてそれらを再エネとして定義し、2013年にその算定方法が定められた。このとき2020年に最終エネルギー消費に占める再エネ比率を20%以上にする目標を掲げていたが、今年1月の欧州統計局発表によると、EU全体で22.1%とその目標を達成した。分野別では、電力が37.5%、熱が23.1%、輸送が10.2%であった。

熱分野の最終エネルギー消費に占めるヒートポンプ熱源の再エネ比率は2004年の0.3%から2020年には2.9%と約10倍に増加している(図)。現状ではバイオマス燃料が再エネ熱量の大半を占めるが、その資源には限りがあるため、ヒートポンプの普及による大気熱等の利用の進展が期待されている。

図

今後については、2018年の改正で2030年の最終エネルギー消費全体に占める再エネ比率を32%以上とする目標が定まったが、昨年その数値を40%以上に引き上げる方向で欧州委員会から原案が示された。あわせて、従来の加熱に加え、冷却についても再エネ量の算定方法が示された。この改正案は、欧州議会とEU理事会での審議を経て、今年9月頃に決定される見通しである。

日本の現状と算定方法の課題

日本では、2009年に施行されたエネルギー供給構造高度化法において、ヒートポンプが利用する大気熱や地中熱、河川・海水熱が再エネとして定義された。しかし、その算定方法は定まっていないため、ヒートポンプが利用した再エネ量は実質的に評価されてこなかった。

ヒートポンプが利用する再エネ量の算定にあたっては、次の二つの方法が考えられる。

一つは気候区分と用途ごとにヒートポンプの性能と運転時間をデフォルト値として与え、ヒートポンプ機器導入量の統計値から簡易的に算定する方法であり、EUではこの方法が採用されている。もう一つは、近年のIoT技術の進展を活用し、ヒートポンプの供給熱量と消費電力量を計測の上、その差を再エネ量の準計量値として認める方法である。

カーボンニュートラル実現だけでなく、エネルギー自給率向上に向けてもヒートポンプは重要な役割を果たす。ヒートポンプ熱源の再エネ量算定について、早急に検討が開始されることを期待する。

著者

甲斐田 武延/かいだ たけのぶ
電力中央研究所 グリッドイノベーション研究本部 主任研究員
2011年度入所、専門は熱工学。

電気新聞 2022年6月22日掲載

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