電力中央研究所

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電気新聞ゼミナール

電気新聞ゼミナール(266)
電動車以外の全固体電池の用途は何があるか?社会実装に向けた全固体電池の課題とは?

電動車以外の全固体電池の活用先

前回は、全固体電池の種類、特徴、電動車への展開について解説した。今回は電動車以外の活用先を、材料の性質に触れながら解説する。

全固体電池で主に利用されている硫化物系や酸化物系の固体電解質はいずれもセラミックスであり、違いは材料の柔らかさと空気中の化学的安定性である。硫化物系固体電解質は、相対的に柔らかく、室温付近で加圧することで、電動車を駆動できる大きさの電池を作製できる。しかし、空気中における硫化物系固体電解質の化学的安定性は低く、空気中の水と反応して有毒な硫化水素ガスが発生する。硫化物型全固体電池では発火や破裂の危険性は低いが、空気中の水と触れた場合の安全性には課題が残る。しかし本課題を、高エネルギー化や高出力化の利点が上回り、電動車電源として開発が活発に進んでいる。

一方、酸化物系固体電解質は、相対的に硬いので、高温処理により表面を融解させた酸化物同士を接合させ、電池を作製する。製造工程が煩雑化するが、空気中の安定性は高く、有毒なガスも発生しない。そのため、安全性や温度変化の耐久性が求められるウェアラブル用やIoT用の電源として、指サイズの酸化物型全固体電池が販売されている。

社会実装に向けた全固体電池の課題

利用する固体電解質ごとに社会実装化に向けた課題は異なるが、共通の全固体電池の課題は寿命である。電池を放電すると、負極から正極へキャリアイオン(リチウムイオン電池の場合、キャリアイオンはリチウムイオン)が移動する(図)。電極活物質がキャリアイオンの受け渡しを行い、電池容量は電極活物質量に比例する。放電により負極活物質はキャリアイオンを放出して縮小し、正極活物質はキャリアイオンを受け取り膨張する。リチウムイオン電池では、電解液の流動性により電極活物質は電解液と触れ、キャリアイオンの受け渡しは容易に起こる。さらに電極活物質が体積変化しても、電極活物質と電解液は接触し続けるため、リチウムイオン電池の寿命は長い。

図

図 全固体電池の内部構成図およびリチウムイオン電池・全固体電池の電極内部の構成図

全固体電池では、電極活物質も固体電解質も固体であり流動性はないため、電池作製時にこれらの粉末同士を接触させ、かつ電極活物質を最大限充填する必要がある。また電極活物質が体積変化しても、固体電解質と接触し続ける必要があるが、接触維持は容易ではない。そのため充放電を繰り返すごとに電極活物質と固体電解質との接触を維持できず、固体電解質と接触しなくなった電極活物質は利用できなくなり、電池の寿命は短くなる。全固体電池の長寿命化を目指して、多くの研究機関や民間会社が開発を進めている。例えば、電池を充放電しても体積変化がない、または極めて小さい電極活物質を利用する、電極活物質の体積変化に追随できるように固体電解質を軟化させる、緩衝材を添加する、といった開発が挙げられる。なお、電極活物質はキャリアイオンだけでなく電子の受け渡しも行う必要があるが、今回は電子の受け渡しや電子の受け渡しを補助するカーボンの説明は省略した。

次回は、電力貯蔵用蓄電池に求められる条件や、電力貯蔵用全固体電池の課題について解説する。

著者

小林 剛/こばやし たけし
電力中央研究所 エネルギートランスフォーメーション研究本部 上席研究員
2008年入所、専門は固体化学、電気化学、博士(工学)。

電気新聞 2022年8月31日掲載

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