電力中央研究所

一覧に戻る

電気新聞ゼミナール

電気新聞ゼミナール(271)
新しい概念「カーボンエネルギー」はエネルギー起源CO2排出削減に役立つか?

エネルギーとCO2の一体対策の困難さ

わが国は2050年カーボンニュートラルを目指している。わが国の温室効果ガス排出量の8割以上を占めるエネルギー起源CO2排出も、大幅削減を目指すことになる。しかし、ジュールなどのエネルギー単位で示されるエネルギー需給の対策と、質量単位で示されるCO2の削減対策とを一体的に進めるのは困難が伴う。

カーボンエネルギーの定義

カーボンエネルギーはエネルギー量とCO2排出量とを一体として扱う新しい概念であり、その定義は、炭化水素のエネルギーとカーボンエネルギー比率の積である。ここで、カーボンエネルギー比率は、炭化水素の成分である炭素のエネルギーと水素のエネルギーより計算される、炭素エネルギーの比率である。

天然ガス、石油、石炭、純水素等を対象とした分析によれば、カーボンエネルギー比率はCO2排出原単位と強く相関する(決定係数0.999以上)。このため、カーボンエネルギー比率の低減は、CO2排出原単位の低減とほぼ同じ意味を持つ。同様に、エネルギー単位で表示されるカーボンエネルギーはCO2排出量に強く相関するため、カーボンエネルギー削減はCO2削減とほぼ同じ意味を持つ。このため、カーボンエネルギー概念を用いると、エネルギー削減とCO2削減を一体的に評価可能となる。

CO2排出原単位の変化要因の見える化

カーボンエネルギー概念の応用例として、わが国を対象に、一次エネルギーに占めるカーボンエネルギー比率の変化を紹介する(図)。

図

図 わが国のカーボンエネルギー比率とCO2排出原単位の推移
(化石エネルギーのカーボンネルギー比率の合計がCO2排出原単位と重なっている)

わが国のカーボンエネルギー比率は、1950年代から60年代にかけて、主に再生可能エネ比率(水力比率)の減少により増加した。1973年度のカーボンエネルギー比率は約63%で過去最大値を記録した。1970年代から90年代にかけては、カーボンエネルギー比率は減少し、1998年度に約52%で過去60年間の最小値となった。減少の最大要因は原子力比率の上昇であった。その後、東日本大震災後の原子力比率の低下が再生可能エネの増加の効果を上回ったため、2020年度のカーボンエネルギー比率は約57%へ上昇した。このように、CO2排出原単位の代わりにカーボンエネルギー比率を用いることで、従来難しかったその変化の要因を明示できる。

また、カーボンエネルギー比率は、最小値0(ゼロカーボン)から最大値1(オールカーボン)の間の比率で表されるので、脱炭素の進展を直感的に把握しやすい。わが国のカーボンエネルギー比率は過去60年間で50%から60%前後で推移しており、今後30年弱でゼロカーボンに近づけることは挑戦的な目標と考えられる。

さらに、カーボンエネルギー概念を、エネルギー機器評価や、エネルギー需要評価に応用すると、CO2排出量に相当するカーボンエネルギー消費をエネルギー消費の一部として表示できる。これは、カーボンエネルギー概念が、省エネ評価とCO2排出評価の統合に役立つ可能性を示している。新しい概念であるカーボンエネルギーが、エネルギー起源CO2排出削減のアイデアとして活用されれば幸いである。

著者

山本 博巳/やまもと ひろみ
電力中央研究所 グリッドイノベーション研究本部 上席研究員
1990年度入所、専門はエネルギーシステム分析、博士(工学)。

電気新聞 2022年11月9日掲載

Copyright (C) Central Research Institute of Electric Power Industry