電力中央研究所

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電気新聞ゼミナール

電気新聞ゼミナール(277)
コンクリートを介することで石炭灰がカーボンニュートラルに貢献できる理由とは?

いま、コンクリートは岐路に立たされている。コンクリートはセメントに水と砂、そして砂利を混ぜて作る。しかし、主材料であるセメントは、その製造過程でどうしてもCO2が排出される。これが大きな課題となっている。セメント産業で発生するCO2排出量は、世界のCO2排出量の約8%を占めると言われており、これを一つの国に例えると、世界第3位になるほどである。この課題に対応すべく、CO2排出量の少ないコンクリートが開発されている。

環境配慮型コンクリート

ジオポリマーコンクリート(GPC)は、環境配慮型コンクリートの一種である。その特徴は、セメントを全く使用せず、石炭灰や高炉スラグなどの産業副産物を主材料とする点にある。セメントを使用しないため、従来のセメントコンクリート(OPC)と比較して、製造時のCO2排出量を約70%削減できると言われている。

環境配慮型コンクリートには、他にも、コンクリートにCO2を吸収・固定させるCO2吸収型コンクリートがある。そのCO2削減量は、GPCよりも大きい。しかし、後述するように、GPCにはCO2吸収型コンクリートにはない大きな利点がある。

低品質な石炭灰を建設資源に

IEAの報告書によると、2022年の世界の石炭使用量は過去最高を更新する見通しである。脱炭素が叫ばれる現代においても、石炭火力発電所の発電量は依然高い水準にある。石炭火力発電所からは、石炭灰の一種であるフライアッシュが大量に産出される。このうち、質の良いフライアッシュは様々な方法で有効利用されている。OPCに混合する材料としての利用もその一つである。

OPCに混合して使用されるフライアッシュには一定水準の品質が求められ、JIS規格を満たさないような低品質なフライアッシュの有効利用は困難であった。一方で、GPCは低品質なフライアッシュをコンクリートの主材料として活用できる。これがCO2吸収型コンクリートにはない、GPCの特筆すべき利点である。GPCは、これまで処理に労を要してきた低品質なフライアッシュを単なる産業副産物ではなく、CO2排出量の少ない環境に優しいコンクリートの主材料へ変革することができる。

新しいコンクリート・イータフコン

電力中央研究所では、環境に優しい次世代コンクリート「EeTAFCON(イータフコン)」を開発した。イータフコンは、フライアッシュを主材料とするGPCである(図)。低品質なフライアッシュを用いても、建築基準法が定めるコンクリートの最低強度(12MPa)の2倍程度の圧縮強度を持つコンクリートが生産可能である。また、鉄筋コンクリート部材として活用できる見込みも得ている。社会実装に向けた取り組みをすでに開始しており、道路用側溝等で施工実績がある。現在は、コンクリート製品会社、建設会社、電気事業者等30以上の機関が参画する研究会を設立し、サプライチェーン構築等の課題解決に向け活動中である。

図

コンクリートは社会インフラの構築に必要不可欠な存在である。持続可能な社会の実現に向けて、環境配慮型コンクリートが担う役割は大きい。

著者

柴山 淳/しばやま あつし
電力中央研究所 サステナブルシステム研究本部 主任研究員
2014年度入所、専門はコンクリート耐震構造、博士(工学)。

電気新聞 2023年2月15日掲載

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