電力中央研究所

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電気新聞ゼミナール

電気新聞ゼミナール(279)
架空送電線の保守・点検にドローンを活用する上で留意すべき点は何か?

近年、ドローン技術の発展に伴い、ドローンの活用範囲も急速に広がりつつある。ホビーの枠を飛び越えたドローンは、多機能・高性能なカメラシステム等を搭載し、測量や監視・警備に活用され、また、各種センサ類や制御システムを駆使した安定飛行により、物流の場にもその活用範囲を広げている。

空の産業革命のための新たな制度整備

国内では、2022年12月5日に改正航空法が施行され、レベル4飛行の解禁、すなわち、「人のいる場所で、操縦者が目視できない範囲でもドローンが飛行できる」ようになった。また、この規制緩和に伴い、ドローンの安全飛行の強化のため、「機体認証」や「操縦ライセンス(ドローン操縦者の技能証明)」の制度が新たに設けられた。

レベル4飛行の解禁により、市街地でのドローンの自動・自律飛行が可能となった。例えば、測量や監視・警備では、あらかじめプログラムされたルートに沿ってドローンが繰り返し飛行し(自動飛行)、撮影や測定ができる。物流では、ドローンに内蔵されたGPSや磁気コンパス、気圧センサ、加速度センサ、ジャイロセンサ、超音波センサ等々の情報をもとに、ドローンが自らの判断で登録された地点へ飛行し(自律飛行)、物資の運搬ができるようになる。

このように、自動・自律飛行を可能にするドローンには、最新の小型で軽量なセンサ類や電子回路、情報処理装置が多数搭載されている。

電力会社の取組み

電力の安定供給のため、電力設備の保守・点検は欠かすことができない。電力設備には発電所、変電所、送電線、配電線など多種あるが、ここでは架空送電線を例にする。

高度経済成長期の急激な電力需要の増大に対応して、架空送電線は、高電圧化・大型化、あるいは多回線化が進められてきた。また、架空送電線は発電所と、変電所や変電所間を結ぶため、沿岸や山間部、市街地も通過する。架空送電線は、国内広域にわたる電気の大動脈のような重要な電力設備である。

このように、架空送電線はその巨大さや設備数の多さから、保守・点検が困難であるだけでなく、山間部等アクセスの困難な地域では、その保守・点検作業に人手や時間、コストがかる。

長距離移動や高所作業を伴う保守・点検作業を人からドローンに移行でき、かつ自動化が実現すれば、極めて大きなメリットが期待できる。ただし、市街地等でのドローンの安全飛行は何よりも重要である。

ドローンの電磁界影響

架空送電線の近傍を飛行するドローンは、送電線からの電界や磁界にばく露される。架空送電線は高電圧に充電され、また時間によりそのレベルは変化するが大電流が流れている。送電線の充電電圧が高いほど、また、ドローンが送電線に接近するほど、高いレベルの電界にドローンはばく露されることになり、磁界ばく露についても同様である。

電磁界の周波数によっても現象は異なるが、電界や磁界ばく露によって、電気製品や電子機器類に誤動作や破損が生じることがある。ドローンも多数の多種多様な電気・電子部品で構成されており、架空送電線近傍を飛行するドローンについて、電磁界影響を十分に考慮する必要がある。

電力中央研究所の塩原実験場(栃木県那須塩原市)には、高電圧研究設備と広い実験エリアがあり、現在、ドローンの電界ばく露装置と磁界ばく露装置が稼動している。電界ばく露装置は、交流の高圧電源と10mの高さに架線した電線で構成されており、高電圧に充電した電線近傍でドローンを飛行させることにより、電界ばく露する。磁界ばく露装置は、低圧の電流発生装置と大型の巻線コイルで構成され、上空のコイル内でドローンを飛行させることにより、磁界ばく露する。

当所では、これまで多数のドローンについて電界・磁界ばく露を実施し、不具合事例を確認してきている。

今後の展開

カーボンニュートラル社会に向け、今後、洋上風力などの新たな設備の保守・点検でも、ドローンに対する期待は大きい。しかし、直流電界の影響や水中ドローンの試験法など課題は多く、ドローンの要求性能を明らかにしていく必要がある。

著者

宮島 清富/みやじま きよとみ
電力中央研究所 グリッドイノベーション研究本部 上席研究員
1997年度入所、専門は環境電磁工学、博士(工学)。

電気新聞 2023年3月15日掲載

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