電力中央研究所

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電気新聞ゼミナール

電気新聞ゼミナール(297)
再生可能エネの余剰電力を用いた電化は3Eに貢献するか?

再生可能エネの大量導入による余剰電力の発生

わが国は2050年カーボンニュートラルを野心的な目標としており、脱炭素化対策の一つが、変動性再生可能エネの大量導入である。国際エネルギー機関(IEA)によるわが国の2050年カーボンニュートラルシナリオ(APSシナリオ)では、太陽光発電174GW、風力発電90GWが導入され、合計すると夏期最大電力の約1.5倍に相当する。将来的には、火力発電による需給調整を最大限行っても、全国レベルの余剰電力の発生が予想される。

余剰電力対策としての需給調整技術の比較

余剰電力への対策として、蓄電設備による需給調整、水素製造、および、需給調整能力を持つ高効率機器による電化がある。

蓄電設備による需給調整では、揚水式水力で約3割、蓄電池で1割以上の充放電エネルギー損失が発生する。

水電解水素製造による電力から水素への変換時には、約2~3割のエネルギー損失が発生する。

需給調整能力を持つ高効率機器としては、電気自動車とヒートポンプ給湯機が存在する。前者は蓄電池、後者は貯湯槽のエネルギー貯蔵機能を有するため、電力需要時間パターンを柔軟に調整可能であり、将来的な需給調整機器として期待されている。

特に、ヒートポンプ給湯機は、IEA、欧州連合、わが国等で再生可能エネと位置づけられる環境熱を活用する機器であるため、投入動力の3から7倍の温熱供給が可能である。よって、一次エネルギーから需要に至るエネルギーチェーン全体での効率が高い。

高効率電化機器の普及によるエネルギーチェーン全体の効果

2050年に高効率電化機器が普及した場合の効果について、電力中央研究所が開発した、エネルギーチェーン全体のコストを最小化するモデルによる試算結果を紹介する。前提として、IEAのAPSシナリオに近い再生可能エネの導入、発電、蓄電、水素、自動車等の効率・コストデータを想定している。

2050年における乗用電気自動車のストックシェアは、低電化率ケースで20%、高電化率ケースで90%と想定する。家庭用ヒートポンプ給湯機のストックシェアは、低電化率ケースで49%、高電化率ケースで77%と想定する。

低電化率ケースでは、約880億kWhの余剰電力が水電解で水素化され、水素エネルギーとして利用される。一方、高電化率ケースでは、水素化用途の電力量が約9割減少し、高効率電化機器のエネルギーが増加する。これにより電力から水素へのエネルギー変換ロスと水電解等の設備投資が回避されるとともに、高効率電化機器の導入が化石エネルギー消費を削減する。これにより、エネルギーチェーン全体の高効率化、低コスト化、自給率向上が可能になる。

この試算によれば、低電化率ケースの3Eに関する各指標を1.0とするとき、高電化率ケースでは、輸入燃料(エネルギー換算)が0.88、CO2排出が0.70、エネルギーチェーンの総コストが0.86へと、それぞれ減少する(図)。

図

図 エネルギーチェーンモデルによる試算結果
(低電化率ケースの結果を1.0とするときの高電化率ケースの試算結果)

この試算からは、カーボンニュートラルを目指す上で、需給調整機能を持つ電気自動車やヒートポンプ給湯機による電化が、エネルギーチェーン全体の3E(エネルギーセキュリティ、CO2、総コスト)に貢献することが示唆される。

著者

山本 博巳/やまもと ひろみ
電力中央研究所 グリッドイノベーション研究本部 上席研究員
1990年度入所、専門はエネルギーシステム分析、博士(工学)。

電気新聞 2023年11月29日掲載

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