太陽光発電や風力発電といった変動性再生可能エネルギー(VRE)の普及に伴い、系統運用の安定化に不可欠な調整力の確保は重要性を増している。これまで日本では、火力電源が主に調整力を担ってきたが、脱炭素化の進展により火力の休廃止が見込まれる中で、新たなリソースの活用が急務となっている。その有力な候補とされる蓄電池は、応動の速さや柔軟な出力制御といった特性を備えており、VREの拡大と火力の減少により周波数維持が一層困難になり、即応性の高い調整力が求められる今後の系統運用では、これらの特性を活かした市場での活用が期待される。一方で、現在は欧米に比べて蓄電池の市場参入が遅れており、調整力として活用される機会は限られている。
こうした現状や今後の脱炭素化の進展を見据えて、電力中央研究所では、調整力を担う新たなリソースの活用に向けた制度対応の方向性を探ることを目的に、欧米の需給調整市場に関する実態調査を行った。本欄では、その中でも特に蓄電池の活用に着目し、その特性を踏まえた制度設計に資する観点を提示する。
米国北東部の地域送電機関PJMでは、周波数を一定に保つ周波数調整サービスにおいて、蓄電池の活用が進んでいる。その背景には、米国連邦エネルギー規制委員会が発令したオーダー755に対応して整備された、性能ベース報酬制度と短周期かつ高頻度の周波数調整指令「RegD」の設計がある。これらにより、指令への追従精度や応動量に応じた報酬が支払われる仕組みが構築され、即応性に優れる蓄電池が市場で高く評価されるようになり、調整力の提供が拡大した。オーダー755は、従来の報酬制度が応動性能の高いリソースを十分に評価しておらず、リソースに対する周波数調整指令が経済的に非効率となっていることを問題視し、地域送電機関と独立系統運用者に対して、応動性能に応じた公正な報酬支払いを義務付けたものである。
米国カリフォルニア州の独立系統運用者CAISOが調達する周波数調整サービスにも、類似する性能ベース報酬制度が適用されている。CAISOでは、RegDのように新たな区分を設けてはいないが、リソースの応答精度や実際の出力変化量に基づいて報酬が決まる仕組みにより、応動性能の高いリソースが優位となる市場が形成された。近年では蓄電池の普及が進み、同サービスにおける蓄電池のシェアも急速に拡大しているが、これは、高速かつ柔軟な出力制御といった蓄電池の強みが、市場で評価されてきた結果と考えられる。
欧州では、風力発電を中心にVREが高いシェアを占めている一方で火力電源の退出が進み、系統慣性力の低下に起因する周波数変化率の増大への対応が課題となっている。こうした状況を受けて、英国では周波数逸脱から1秒以内の応動を求める高速調整力商品「Dynamic Containment(DC)」等が新設された。島国であり、周辺国との連系容量が限られるという地理的制約を踏まえ、従来商品よりも即応性や応答精度の高度化が図られたものと見られる。その結果、DC等の調整力商品では蓄電池が主要な提供リソースとなっている。
米国PJM・CAISOの報酬制度や、英国の即応性を重視した商品設計は、蓄電池のみを対象とした制度設計ではないが、いずれも蓄電池の特性に即したものとなっており、結果として需給調整市場での活用を促してきた。蓄電池の普及は、コスト低減や各地域の政策支援等の複合的な要因により進展しており、需給調整市場の制度設計が導入量そのものを押し上げたとは言えないものの、導入が進む蓄電池の市場活用を後押ししてきたと考えられる。
日本でも蓄電池の普及が進む中、調整力としての活用を進めるには、その性能を市場で適切に評価する仕組みが必要となる。特に、即応性や柔軟性といった特性を踏まえた評価指標や商品要件の整備は、蓄電池の調整力活用を促す制度設計を検討する上での重要な視点となる。
電気新聞 2025年5月28日掲載