
電力流通設備のうち特に敷設数が多く、樹木や需要家施設に近接する架空配電設備は、それら周辺施設の被害により二次被害を受けやすい。近年では、海水温の上昇に伴い、気象災害も複合化・激甚化する傾向となっており、これまで経験したことがないような地域にも自然災害が発生するリスクがますます高くなっている。このため、被害をある程度前提とした対策の強化(レジリエンス強化)が電力流通設備の中でも特に配電設備には求められている。
具体的に経済産業省主催の電力レジリエンスワーキンググループ(WG)は、既往災害に対する復旧対応の検証を行い、被害状況の迅速な把握・情報発信、国民生活の見通しの明確化、被害発生時の関係者の連携強化などの論点を整理した。その結果、「情報を迅速に収集して停電復旧時間を見積もり、関係者に情報を届ける情報基盤が必要」との提言をまとめている。
このような背景から、当所では2020年度、21年度の2か年で経済産業省の委託研究として「早期電力復旧情報プラットフォーム(RESI)」を開発した。
これに対して一般送配電事業者は、災害時連携計画を整備するとともに、近年発生した自然災害の教訓として、停電復旧を阻害する情報をできるだけ早く正確に収集し、災害復旧関連情報を事業者間で共有できる情報共有プラットフォームの重要性を近年、強く認識するようになってきた。このため、RESIにより副次的に得られる様々な災害情報の効果的な活用方法についても検討を開始した。
このような経緯のもとRESIは、経済産業省及び一般送配電事業者の協力のもと、その運用を継続しながら、定期的にその機能の改善・拡張を行っている。
RESIは、①被害予測情報の把握、②停電復旧の阻害となる災害情報の収集・表示、③復旧見通し予測という3つの機能を有している。①は、当所が開発した配電設備を対象としたリスク評価マネジメントシステムの独自技術により評価された設備被害予測情報をRESIにより可視化して情報共有する機能である。この機能により例えば、台風襲来前に設備被害程度を共有し、的確な人員・資材の配置を早期に行うことも可能となる。
②は、停電復旧に影響のある災害情報を精査し、リアルタイムに収集・表示する機能である。気象情報、周辺施設被害、樹木倒壊、および停電関連情報を含む停電復旧を阻害する可能性の高いあらゆる情報から「いま何が起きているか」を県や市町村などの行政区単位といった様々な解像度で共有することが可能となる。
③は、①と②から復旧の阻害要因を精査し、過去の災害情報などと組み合わせて自動的に復旧見通しを予測する機能である。RESI開発の主目的は、精度の高い復旧見通し情報を復旧現場で共有することにある。加えて、2020年6月に成立したエネルギー供給強靭化法では、事業者に48時間以内の復旧見通しの公表が求められているが、この対応への参考情報としての活用も期待されている。さらに、復旧見通しを算出する過程で収集した情報を効果的に一般送配電事業者に提供し、事業者間の広域連携の迅速化に役立ててもらうことも、RESIの重要な目標となっている。
一方、RESIの課題は、復旧見通しの精度向上はもちろんであるが、復旧見通しという不確実な情報の共有方法にある。復旧見通しの精度向上のためには、復旧阻害要因となる道路情報や樹木など地域被災情報をRESIに提供してもらい、その予測情報も含めて関係者間で共有することが重要である。しかしながら、不確実な予測情報の不用意な共有は、逆に復旧現場を混乱させてしまう可能性が高い。よって、一般送配電事業者ばかりでなく、地域社会全体で復旧見通し情報を効果的に共有するためには、他部門・他業種との連携強化や予測情報の特性を踏まえた情報提供のタイミングやそのやり方について慎重に議論していく必要があろう。
なお、この一連の成果は、当所が過日に開催した「研究成果報告会2025」で報告しており、後日、報告の動画を配信する。
電気新聞 2025年11月26日掲載