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電気新聞ゼミナール

電気新聞ゼミナール(347)
震源域から離れた地震時地表変位をどう捉えるのか?

地震の規模がM6.5より大きく、震源の深さが比較的浅い地震が内陸で発生した際、震源断層が地表に出現する場合がある。これに加え、震源域から離れた場所において、様々な成因を持つ小規模な地表変位がしばしば確認される。代表的なものとして、副次断層、重力変形、液状化、側方流動などが挙げられる(図)。副次断層とは、震源断層の活動に誘発されてできた比較的小規模な直線状の地表変位を指す。重力変形は広義の地すべりに含まれ、その一部は大規模な深層崩壊の前兆現象と考えられている。また、側方流動はしばしば液状化と併せて出現し、緩傾斜地や平野部において、地盤が水平移動する現象のことを指す。これら地震時地表変位の成因や発生しやすい場所を見分けることは、原子力発電所の適合性審査を含む防災・減災の観点から重要である。

図

図 代表的な地震時地表変位の模式図

リモートセンシング技術の進展

地震時地表変位の観測において、基本となるのは地表での直接観察(地表踏査)であるが、現在広く利用されているのが干渉SARである。これは合成開口レーダー衛星が異なる時期に取得した地表までの距離情報を含む画像データから、数センチ規模の地表変動を面的に把握できる技術である。平成28年熊本地震では、この手法により、震源断層である布田川断層の周囲で200本を超える直線状の地表変位の出現が明らかになった。ただし、地盤の変位が極端に大きい場合には解析ができないという制約があり、震源断層近傍の地表変位は捉えられていない。

また別の手法として、LiDAR-DEM差分解析も地表変位の抽出には有効である。この手法は、航空機やヘリコプターから照射したレーザーの反射波を基に、地表の高さを数値データ(LiDAR-DEM)として取得し、そのデータを地震前後で比較することで変位を検出する手法である。この解析により、令和6年能登半島地震に伴い、半島内陸部の複数地点で地表変位が生じていたことが新たに確認された。

地震時地表変位の成因の多様性

地震時地表変位の出現や変位量を予測するためには、その成因を把握することが重要である。熊本地震では震源断層と震源域から離れた直線状の地表変位の複数地点でトレンチ調査が行われ、両者が過去にも同時期に活動していたことが確認された。ただしその成因には地域性・多様性が指摘されている。阿蘇カルデラ内部に出現した大規模な陥没状の地表変位は、液状化とそれに伴う側方流動が主要因だと考えられている。一方で、阿蘇カルデラの外輪山や、熊本の市街地に生じた直線状の地表変位の一部は、布田川断層の活動に誘発された副次断層と考えられている。

能登半島地震では、珠洲市の若山川沿いで最大約2mの崖が出現し注目を集めた。電力中央研究所ではLiDAR-DEM差分解析と地表踏査を実施し、背後斜面の滑落崖を発見した。これにより、谷底に生じた大規模な崖は、背後斜面の重力変形に伴う谷底の圧縮によって形成されたものと推測された。これらの重力変形が能登半島の過去の巨大地震に毎回連動していたのか、今後古地震学的な調査を行う予定である。

課題と展望

以上において示したように、リモートセンシング技術の発達により、これまで見えてこなかった地震時地表変位の分布や性状が明らかとなってきている。一方で、熊本地震や能登半島地震の事例で示した通り、これらの成因には地域性・多様性がある。そのため、事前にその出現・規模を予測するためには、リモートセンシングだけでは不十分で、周囲の地形・地質情報に着目した、丹念な現地調査が欠かせない点を付記しておきたい。

著者

小村 慶太朗/こむら けいたろう
電力中央研究所 サステナブルシステム研究本部 主任研究員
2016年度入所、専門は地形学、博士(理学)。

電気新聞 2025年12月24日掲載

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