
前回の本欄では、電力設備周辺に侵入・拡張する植物が、なぜ問題として気づかれにくいのかを整理した。植物は地下で根や根茎を広げながら生育し、地上部についても、どの程度の速度で、どの方向へ成長していくのかは、定期的に観察していなければ把握しにくい。そのため、変化そのものに気づきにくく、直ちに設備に影響を及ぼすリスク要因として結び付けて捉えられにくい。
そこで今回は、植物の成長や繁茂が、どのようにして配電設備のリスクを増幅させていくのかを整理する。
植物は、それ自体が常に事故を引き起こす存在ではない。しかし、雨、風、雪、雷といった環境条件と組み合わさることで、充電部との接触や絶縁距離を変化させる。このように植物は事故リスクを高める存在であり、直ちに事故とならないからといって放置できる対象ではない。例えば、つる性植物は光を求めて回旋しながら上方へと成長する性質を持ち、条件が整えば1日で1m以上も成長する。その過程で、配電柱の支線や足場釘、支持金具などは格好の足場となり、想像する以上に短期間で充電部のある上方へと導いてしまう。こうした状況を防ぐため、支線への巻き付きを防止する対策品の設置など、現場では工夫が重ねられてきた。
しかし、これらの対策は成長経路の一部を遮るものであり、植物の成長そのものを止めるものではない。時間の経過とともに、別の支持点を見つけて再び上方へ到達するケースも少なくない。接触や点検・保守作業の支障となるおそれがあれば、対応可能な範囲で刈り取りを行う判断が現場で積み重ねられてきた。
こうした対応は、事故が起きてから可視化されるものではなく、日常の中で継続される判断と作業によって、結果としてリスクを抑え続ける性質のものである。
こうした積み重ねの中で浮かび上がるのが、対応可能な範囲が限られる、という現実である。通常、配電設備の植物対策は、直接接触する部分や、点検・保守作業の支障となる箇所に限定せざるを得ない。
しかし、前回言及したように、接近する植物、特に多年生のつる性植物の本体は、地下の根系ネットワークである。ほとんどの場合、設備周辺に広く繁茂し、あらゆる方向から支線や他の構造物を足掛かりに、設備へと迫る。対策品に巻き付いた植物の地上部を刈り取っても、借地や他者所有地に根を張る地下構造が残る限り、植物の侵入は形を変えて繰り返される。現場が対応可能な範囲に的確に対処していても、対応を繰り返さざるを得ないのは、この空間的な制約に起因しているためである。
対応の制約は、時間の要素と結びつくことで、別の形でリスクを押し上げていく。対策品が性能を発揮して、一時的に充電部への接近が抑えられている期間であっても、次の成長に向けた植物の構造は着実に形成され、地下では根系が面として広がり、養分が蓄積されていく。結果として、次の生育期には地上部の立ち上がりが早まり、成長も急速になる。つまり、接近を抑えている間に繁茂面積が拡大するだけでなく、刈り取った翌年には繁茂の開始時期が前倒しされる。設備への接近がより早く、かつ、より長い期間にわたって持続する構造が形成されていく。
こうして、対策品による対応は、短期的なリスク低減策としては有効である一方で、時間の経過とともに、より早期かつ長期間にわたる接近リスクを内包する状態へと移行していく。空間的な制約が解消されない限り、対応の頻度や方法が同じでも、リスクだけが時間とともに積み上がっていく。リスクは抑え込まれているように見えても、その基盤は地下で育ち続けているのである。
植物によるリスクは、対策品の設置や刈り取りといった個々の対応の成否だけで判断できるものではない。空間的・時間的な制約の中で、どのように管理していくかという視点が、次に問われることになる。
次回は、対応を積み重ねる発想から一歩離れ、電気事業における植物管理の位置付けを再考するとともに、受益と負担の関係を踏まえた植生マネジメントの考え方を整理する。
電気新聞 2026年3月11日掲載