
前回の本欄では、光学センサを搭載した人工衛星の観測データを用いて、森林の状態を把握する方法について解説した。山間部で倒木などの森林被害が発生すると、送電線や鉄塔、作業用道路などの電力インフラに大きな影響を及ぼす。被害の規模や分布が把握できなければ、復旧作業の着手自体が遅れ、安全確保や作業計画にも支障をきたす。被害復旧を迅速かつ安全に進めるためには、現地の状況をできるだけ早く、かつ面的に把握することが不可欠である。
高解像度の光学衛星画像は空中写真と同様に、目視でも樹木一本一本を確認できる。しかし、災害後の広範囲に及ぶ山林を人手で判読し、被害域を地図化する作業には多くの時間と労力を要する。将来的には、こうした判読結果を蓄積することでAIによる自動判定が可能になると期待されるが、災害対応の初動では、より簡便で即応性の高い方法が求められる。そこで有効となるのが、光学衛星が取得する植生指数を用いた森林被害域の把握である。
植生指数とは、植物が強く反射する近赤外光と吸収する赤色光の特性を利用して算出される指標であり、光学衛星による森林監視の代表的な手法として広く利用されている。中でもNDVI(正規化植生指数)は値の範囲がマイナス1から1に正規化されており、森林の状態を直感的に理解しやすい。一般に森林が健全であればNDVIは高い値を示すが、伐採や枯死、倒木、裸地化など森林被害が発生すると値は低下する。台風や地震によって森林が消失した場合や、広範囲で倒木が発生した場合も、林冠構造が破壊されることでNDVIの低下として現れる。
被害域を単純に把握するには、NDVIが低い場所を抽出すればよい。しかし、この方法では、以前から伐採などによりNDVIが低かった場所と、新たな災害により被害が発生したことでNDVIが低下した場所とを区別することができない。そこで、被害発生前後のNDVI画像の差分を取り、変化量が大きい地点を抽出する方法が有効となる。もともと森林だった場所では差が大きく現れ、既に非森林化していた場所では変化が小さくなるため、森林被害域を効率的に推定することが可能となる。
一方で、植生には季節変化があることに注意が必要である。落葉広葉樹では冬季にNDVIが低下し、春から夏にかけて上昇、秋には再び低下する。草地も同様の傾向を示すが、農地では作付けや収穫の影響により、年間を通じて不規則な変動が生じる。季節変化の影響を抑えるには同じ季節の画像を比較することが基本であるが、日本では雲が多く、同条件の光学画像を取得することが難しい場合も多い。また、同じ季節の画像を確保するために1年以上前の画像を参照すると、土地利用の変化が生じて誤判定の要因となる。そのため、複数時期の画像を組み合わせ、季節変動と土地利用変化を相殺する工夫が有効となる。加えて、土地被覆情報を用いて森林域のみを対象とし、光学衛星特有の課題である雲の影響を考慮した判別処理を組み合わせることで、誤判定を抑えることが可能になる。
こうして推定された森林被害域は、電力インフラの被害対応や復旧計画の立案において基礎情報として活用できる。山間部で倒木が発生した場合には、道路や林道の寸断、作業ルートの遮断といった形で復旧作業の妨げとなることが少なくない。広範囲に及ぶ被害では、現地確認だけでは全体像を把握するまでに時間を要するが、光学衛星データを用いることで、被害が集中している区域を俯瞰的に捉えることが可能となる。
また、倒木が多発している地域では、その後に斜面崩壊などの二次災害が発生するリスクも高まる。作業員の安全確保や復旧順序の判断においても、被害の広がりを事前に把握する意義は大きい。
広域を一度に把握できる光学衛星データは、被害の全体像を迅速に可視化する手段として、現場確認や対応までの事前段階で作業計画を検討する際の重要な基礎情報となる。さらに、ドローンなどの観測手法と組み合わせることで、省力的で安全な作業の推進にも寄与するものと考えられる。
電気新聞 2026年5月13日掲載