
わが国は電力供給の3~4割をLNGに依存しており、その安定調達が重要である。今年に入り、中東有事によるスポット価格高騰を受け、長期契約による安定調達の重要性が改めて認識された。
一方で、LNG長期契約の締結に当たっては、将来のLNG需要を適切に見通すことが不可欠である。しかしながらLNG需要は、再エネ電源の導入状況や原子力発電所の再稼働・新増設、さらには人工知能の普及に伴う電力需要増など多様な要因に左右され、その見極めは容易ではない。
こうした不確実性の下では、長期契約比率を高めれば余剰発生に伴う損失リスクを負い、逆にスポット比率を高めれば、地政学リスク等の発生時に調達不足や調達コスト増のリスクを負うことになる。
このようなトレードオフに対応する手段として、長期契約に追加のオプション料を支払うことで、年度ごとに数隻まで、増量または減量を行う権利を付与できる場合がある。増量時の追加調達価格はLNGスポット価格ではなく、当該長期契約の価格決定式による。
この数量柔軟性により、長期契約で将来の需要量を確保しつつ、調達余剰、調達不足、スポット価格の急騰といった事態にも備えられるようになる。
例えば、増量権を行使してLNGを1隻追加調達するとき、転売には契約上・実務上の制約があるため、事業者は当該LNGを自社火力で消費し、発電した電力を市場で売電することになる。このときの売電利益は卸電力価格と燃料コストの差であるスパーク・スプレッド(以下スプレッド)によって決まる。スプレッドがマイナスであれば、売電利益は見込めないので増量権は行使しない。したがって、増量権はスプレッドがプラスのときにその利益を享受できる権利であり、金融分野におけるコール・オプションと同じ構造となる。その価値はオプション価格理論を応用して求めることができる。
図に、契約期間10年の長期契約を対象として、各契約年度に1隻まで増量または減量できる権利のオプション価値を示す。横軸は、長期契約のLNG値格決定式(原油価格連動)の傾き係数である。この係数は契約ごとに売主との交渉で決まっている。
係数が小さい契約ほどLNGを低価格で調達できるため、スプレッドはプラスとなりやすく、増量権の価値は高くなる。一方、係数が大きくなると、減量権の価値が高くなる。係数が大きい契約では、LNG価格が卸電力価格より高くなりやすく、減量権により安価な市場買電に差替えることができるためである。
増量権/減量権は、その行使期限に応じて、期前行使型と期中行使型に分類される。図の計算例は、行使期限が各契約年度の前年10月に設定された期前行使型のケースである。
これに対し、期中行使型では、例えば各配船日の30日~90日前まで行使できる。買主は配船に近い時点まで市場動向を見極めて行使判断できるため、市況変化に柔軟に対応できる。そのため、期中行使型のオプション価値は期前行使型よりも高くなる。ただし、期中行使型では市況変化に応じた最適な行使判断を期中に行うため、その価値評価は、将来の価格変動を多数回シミュレーションし、最適行使を織り込んだ期待値計算が必要となる。
数量柔軟性は、数量リスクと価格リスクに備える保険のようなものである。過剰な柔軟性を確保したり、割高なオプション料を支払ったりすることのないように、自社に必要な柔軟性の範囲を見極めた上で、その価値に見合った適正なオプション料の水準を把握し、契約交渉に臨むことが重要である。
電気新聞 2026年8月12日掲載