
昨年12月22日、米内務省の海洋エネルギー管理局(BOEM)は、米国内で建設中の洋上風力発電所5地点に対し、海域利用権を一時停止する決定を下した。決定の対象となった事業者は、建設工事を一時中断した。
トランプ大統領は大統領就任当日、前政権からの方針転換の一環として、連邦政府の管轄下にある海域での洋上風力発電への許認可を包括的に見直すことを関係省庁に命じた、大統領覚書を公表していた。今回の決定は、政権発足当初からの方針に沿ったものであり、8月に続く2 回目となる。本稿では、今回の決定の対象となった事業者のうち、デンマークのオーステッド社などが推進する洋上風力発電所計画「Revolution Wind Farm」の事例をとりあげ、一連の経緯と今後の影響を解説する。
同計画は、米東部ロードアイランド州の沖合28kmに65基(70万4000kW)の風車を建設し、同州およびコネチカッ卜州に電力を供給するものだ。2013年にオークションによって事業者が選定されて以降、許認可手続きを経て、23年11 月に建設・操業計画が承認され、現在までに建設工事の87%が完了している。
海域利用権の一時停止の理由とされたのは、安全保障上の懸念だ。決定文書では具体的な根拠は示されていないが、近年の軍事技術の進歩と対象事業の立地を考慮した上で、90日間の一時停止期間中に安全保障上の懸念解消に向け、事業者と協議を行うという趣旨の記載がある。
対して事業者は今年1月2日、ワシントンDC連邦地裁に決定の差し止めを申し立てた。事業者側の主な主張の一つ目は、決定の恣意性(しいせい)である。米国の行政手続法では、行政機関の決定や従来の判断を変更する場合、合理的な説明を示し、過去の判断との違いを明確にしなければならないとされている。
前述の通り、決定文書では具体的に何が安全保障上の懸念に相当するのかは示されていない。事業者が提出した書面によれば、関係当局との直近の協議においても、安全保障に関する懸念事項は一切、示されていなかったとのことである。
また事業者は、長期にわたる許認可取得の過程を通じて、国防省をはじめとする関係当局と安全保障上の懸念について協議を行なってきた。事業者が提出した書面では、24年11月には国防省および米空軍と事業者の間で、軍用レーダーヘの影響緩和策を含む合意が締結されている。しかし、今回の決定では、これら従来の合意や許認可を覆すための、合理的な説明や過去の判断との違い具体的に説明されていない。
主な主張の二つ目は、海域利用権の停止に至る適正手続きの不備である。米国では、海域利用権のような政府が付与したリースや許可は、合衆国憲法修正第5条の下で保護される「財産権」を形成すると解されている。同条項に基づき、政府がこれらの財産的利益を制限・剥奪する際は、緊急性や国家安全保障上の看過できない例外的事情がない限り、事前通知および反論・説明の機会を当事者に与えることが憲法上の義務とされている。しかし、今回の決定において内務省は、新たな機密情報に基づく安全保障上の懸念を理由に、上記のような適切手続きを経ず、直ちに海域利用権を一時停止する 措置に踏み切った。
そして今年1月11日、同連邦地裁は、事業者の主張を認め、海域利用一時停止の決定を差し止める判断を下した。昨年8月の海域利用権停止に際しても、「恣意的で気まぐれな行政行為の極致」と政府の決定を批判した上で、同様の判断を下している。
このように、安全保障上の懸念を理由とした洋上風力への海域利用権停止決定は、法的根拠が乏しい。それにもかかわらず、2回目の決定に踏み切った真意は、 洋上風力をはじめとする再生可能エネルギーそのものへのトランプ政権の姿勢の表れである。海域利用権を管轄する内務省のバーガム長官は、12月のBOEMの決定に際し、米メディアやSNSなどで洋 上風力について、「高コスト」「信頼性が低い」などと発言していた。
事業者への影響はどうか。今回の決定から連邦地裁による差し止めまでに要した時間は約3週間である。訴状によれば、工事停止による損失額は、1日当たり144万米ドルとのことである。本計画の場合、海域利用権の期間が建設・操業計画の承認から25年間に設定されていることから、運転開始の遅れがプロジェクトの損失に直結する。加えて、工程遅延によって発生する追加費用、洋上に風車を設置するためのSEP船のリース契約期間、PPA (電力販売契約)が定める完成期限なども、大きなネックとなる。
一時的であるにせよ、建設中の計画が工事中断に追い込まれたことは、米国では今後も政権交代のたびにこのようなリスクが生じ得ることを意味する。洋上風力のように長期間にわたる事業計画の場合は、事業者は米国への投資に慎重にならざるを得ない。今回の一連の出来事の本質は、政権交代によって長期インフラ投資の前提条件が容易に揺らぐという認識が、市場に刻み込まれた点にある。
政権交代に起因する政治リスクを民間の事業者が単独で負うことには限界がある。実現は容易ではないが、予期せぬリスクを織り込んだ柔軟なPPA条件の設定や州単位での事業者支援といった、投資環境を整備することが不可欠である。
旬刊 EP REPORT 第2164号(2026年1月21日)掲載
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