電力中央研究所

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日刊工業新聞

確かな価値の創出に向けて 挑む電中研③
ボイラ内部撮影システム

火力発電の安定供給に貢献

 2050年カーボンニュートラル社会実現に向けたトランジション期において、再生可能エネルギーの出力変動を補う調整力として、火力発電が担う役割は依然重要である。近年は二酸化炭素(CO2)排出係数の低い液化天然ガス(LNG)火力の新設が進められているが、エネルギーミックスの観点からは既設の石炭火力(主に微粉炭火力)の安定運用も不可欠である。

 その際の課題の一つとして、微粉炭火力ボイラの内部で発生する石炭灰(クリンカ)の付着がある。クリンカが伝熱管に付着すると、熱交換を妨げ、ボイラ効率低下の要因となる。それだけではなく、大きな塊となったクリンカの脱落は伝熱管の損傷を招き、デスラッガやスートブロワ(蒸気噴射式クリンカ除去装置)のポート部分の詰まりはクリンカの除去作業を難しくし、発電所の計画外停止に繋がるおそれもある。

 これらを未然に防ぐには、運転中のボイラ内部を詳細に監視することが不可欠であるが、従来の遮光面を通した目視観察は記録や定量的な評価が難しく、炎を透過して撮影できる中赤外線カメラは高価かつ解像度が低いという欠点があり、また、空冷や水冷を必要とするプローブ型カメラは撮影や設置に多大な手間を要するなどの課題を有している。

 これらの課題を克服すべく、電力中央研究所(電中研)は、安価な汎用可視光カメラと独自のリアルタイム画像処理技術を組み合わせた、新たな撮影システム「C-BIS」を開発した。同システムは、カメラで撮影した映像をパソコンでリアルタイム処理し、炎や燃焼ガスに埋もれた構造物を鮮明に浮かび上がらせることを可能としている。特に、画像を小領域に分割し、それぞれの領域でコントラストを最適化する「CLAHE」という画像処理手法を応用することで、従来は困難であった可視光カメラによる炎越しの高解像度な撮影を実現した。

図

 運転中の発電所における撮影試験では、伝熱管へのクリンカの付着状況や耐火材の状態、デスラッガポートの詰まり具合など、ボイラ内のさまざまな箇所の観察に成功。これにより、トラブルの早期発見や原因究明はもとより、付着状況に基づいた効率的なクリンカ除去や、定期点検時におけるメンテナンス計画の策定精度向上に繋がると考えている。

 電中研は今後も火力発電所の安定運用・運転コスト低減に資する技術開発を通して、カーボンニュートラル社会の実現に貢献していく。

著者

吉田 匡秀/よしだ まさひで
エネルギートランスフォーメーション研究本部 プラントシステム研究部門 主任研究員
2014年度入所、専門分野はボイラ、化学洗浄、光学撮影、腐食疲労

日刊工業新聞(2025年10月30日)掲載
※発行元の日刊工業新聞社の許可を得て、記事をHTML形式でご紹介します。

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