
我が国のインフラ設備はその多くが1960年代前後の高度経済成長期に作られ、設置後半世紀以上が経過していることから、経年化の進行による設備の点検、更新の必要性が年々増加している。一方で、少子高齢化などに伴う労働力人口の減少により、インフラ設備維持の担い手の確保は年々難しくなっている。そのため、いわゆるスマート保安技術の一環としてIoT(モノのインターネット)を活用し、人がいなくても各種の無線センサーがインフラの状態を監視することで、点検作業の省力化を図るなどの状態監視技術の高度化が望まれている。
しかしながら、無線センサーを多く活用するには、その電源供給をどうするのかという課題が残されている。従来の電源ケーブルを用いた有線のセンサーや電池駆動型のセンサーだけでは、センサーの設置場所が配線可能なところに限定され、電池交換の手間と多量の使用済み電池の廃棄が生じる。そこで、センサー設置場所の周辺にある微小なエネルギーをかき集めて電力に変換し利用する技術、環境発電(エネルギーハーベスティング)の活用が期待されている。
一口にエネルギーハーベスティングと言ってもその元となるエネルギー源は光、熱、振動、電磁波など多種多様であるが、電力中央研究所(電中研)では、振動発電の技術開発に力を入れている。振動発電は振動源の周波数に合わせて発電素子を調整することで効率的に発電できるが、電力設備では50Hz/60Hzに由来する常に一定の周波数の振動を発している設備が多い。このため、発電素子の調整がし易く振動発電の活用に適したフィールドであると言える。電中研では電力設備状態監視用センサーを対象とした振動発電モジュールを開発し、現在までに振動発電を電源として温度、湿度、気圧、照度などのデータを取得する無線環境センサーを年単位で安定的に動かせることを実証している。また、画像のような容量の大きなデータを取得し無線送信ができるセンサーシステムも開発している。振動発電の発電性能向上と無線センサーの省電力化を両輪で進めることで、適用可能なアプリケーションはさらに多方面に広げていくことができる。また、無線センサーから得られたインフラ設備の状態データを解析、活用するための研究も進めている。これらの研究開発を大学や企業とも連携しながら進めることで、スマート保安技術の発展による電力設備の安定運用と、安全で安心して暮らせる社会の実現に貢献していく。
日刊工業新聞(2025年11月27日)掲載
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