
多くの社会インフラは高度経済成長期に集中的に整備されており、架空送電線路についても同様である。架空送電線路は、電気を送る電線、電線を支える支持物(鉄塔や鉄柱)、電線と支持物の間を絶縁するガイシなどにより構成される。電気事業者が保有する鉄塔は2024年時点で約24万基であり、その半数ほどが2025年には経年50年以上となるため、保全の優先順位付けが必要である。
鉄塔は亜鉛メッキを施した鉄(炭素鋼)で作られており、主に腐食によって劣化が進む。腐食は気温、湿度や海塩の影響を受けるため、海沿いと山間部では鉄塔の劣化度合いが異なる。鉄塔位置ごとの腐食速度が分かれば、電気事業者が保全の優先順位付けをする助けとなる。電力中央研究所(電中研)では気象モデルや数値流体解析を用いて、気温、湿度、海塩量の全国数kmメッシュの数値を求め、それらをISO規格を参考とした腐食速度推定式で鉄と亜鉛の腐食速度に換算し、データベースとして整備して電気事業者に提供している。
鉄塔では、鉄を保護する亜鉛メッキが消失した以降は塗装によって防食する。塗装も経年劣化するため定期的な塗り替えが必要となるが、前述の通り対象数が多いため正確に劣化診断し、保全の優先順位付けをすることが望ましい。電中研では、携帯型の測定器で塗膜のインピーダンスを測り、計測値から劣化度合いを判定する手法を開発し、現場での実証を進めている。塗装の防食性能は、塗料の種類、塗り替えの際の素地調整の度合い、残存塗膜への重ね塗りの有無などによるため、さまざまな条件に基づく塗装試験片を作り、条件毎の影響の違いを評価するための試験を進めている。これらの成果は診断手法の高度化や、塗装の劣化に関わるデータベースの整備に反映する計画である。
電線は導体となるアルミニウム素線(外周部)と強度を支える鋼線(中心部)をより合わせた構造である。電線も鉄塔と同様に腐食が主な劣化要因となるため、腐食を考慮した保全の優先順位付けが必要である。電中研では気象解析や塗装の研究に加えて、2023年から電線の腐食を評価する研究に着手し、まずは環境因子と電線の腐食度合いの関連を調べている。電線は構造上、鉄塔部材よりも腐食の挙動が複雑であるため、外周のアルミニウムと内部の鋼の相互作用に着目しながら、腐食が進行する様子を調べている。
以上の成果の多くは学会などを通じて積極的に公開しており、鉄塔以外の屋外構造物にも適用が期待される。
塗装試験片の大気暴露試験
日刊工業新聞(2026年1月8日)掲載
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