電力中央研究所

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日刊工業新聞

確かな価値の創出に向けて 挑む電中研⑧
設備強度評価の効率化

映像から微細振動を計測

 電力インフラの安全・安定供給は社会の基盤であり、その維持には高度な保全技術が欠かせない。特に近年では設備の高経年化や保守人員の減少、災害リスクの増大により、点検・保全業務の一層の効率化・高度化が求められている。

 こうした課題に対し、電力中央研究所(電中研)はカメラ映像を解析して設備の微細な動きを計測・可視化する技術を開発した。構造物の強度や耐久性を評価するには、外力に対する応答(変位や振動)を計測することが有効である。従来は多数の接触式センサーを設置する必要があり、工事や停止時間が伴うためコストや作業負担が大きく、適用範囲が限られていた。これに対し同技術は、1台のカメラ映像から広範囲の振動を遠隔・非接触で同時に計測できる点が特徴である。画素の変化から動きを検知するオプティカルフローと呼ばれるアルゴリズムを高度化することで、画素の1000分の1といった微細な動きまで捉えることができる。計測結果をもとに各点の動きを最大10万倍に拡大した映像を生成する機能も備え、肉眼では見えない微細な振動を直感的に把握して疲労損傷などの兆候を把握し、早期対策につなげられる。

 電中研では実規模の試験設備や物理シミュレーション技術も保有しており、現在はこれらを組み合わせて具体的な設備保全での活用に向けた研究を進めている。例えば、風に吹かれる電柱を撮影し、その微細な揺れの周期が映像から計測できることを他のセンサーと比較検証するとともに、強度低下時に発生する周期の変化を物理シミュレーションにより確認している。この研究によって、表面に表れない電柱の強度低下を映像から容易に把握し、対策できるようになることが期待される。今後は送電線や配管など、さまざまな設備への展開を進める。また同技術は橋梁やプラント設備、製造ラインの異常検知など、電力分野を超えた応用も期待できることから、メーカーを通して同技術をライセンス提供する枠組みを構築し、社会実装を加速している。将来的には映像解析で得られる振動データを蓄積し、AI(人工知能)による劣化や疲労損傷の予測、リスク評価を行うことで、「予防保全」から「予測保全」への進化を目指している。

 電力設備保全の効率化は単なるコスト削減ではなく、災害に強い社会インフラの構築に直結する重要課題である。電中研は研究開発・実証・社会実装を通じ、安全・安心な電力供給を次世代へ継ぐ挑戦を続けていく。

図

電柱・送電線・配管の微細な振動を拡大表示した例。
肉眼では見えない動きを最大10万倍まで強調できる。

著者

高田 巡/たかだ じゅん
グリッドイノベーション研究本部 ファシリティ技術研究部門 上席研究員
2025年度入所、専門分野は画像処理。

日刊工業新聞(2026年2月5日)掲載
※発行元の日刊工業新聞社の許可を得て、記事をHTML形式でご紹介します。

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