電力中央研究所

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NRRC研究紹介連載企画

地震PRAの高度化に向けて
第3回 断層連動性評価・地震動評価の高度化

本稿では地震PRAで検討する必要がある震源および地震動の不確実さに関わる取り組みについて紹介する。

震源の不確実さ要因には、場所、規模、発生確率に関わるものがある。この中で、地震規模は破壊される断層の長さあるいは面積に比例する。そのため、複数の活断層が連続的に分布する地域では、その連動範囲を評価することが重要となる。

その評価は一般に、①歴史地震の断層破壊区間、②断層の分布形態、③有史以前の古地震学的破壊区間などに基づいて行われる。しかし、活断層の活動間隔は数千年~数万年と長いため、対象となる断層で①、③が明確になる例は限られている。このため、国内外の地震の実例から、連動した活断層の分布形態(主に離間距離)を統計的に一般化して対象となる断層の評価に用いるのが②である。

原子力リスク研究センター(NRRC)では、この考えを拡張して、一連の断層の破壊が途中で停止した地点の地下構造に着目している。たとえば、熊本地震は全長100kmに及ぶ布田川・日奈久断層系の北部区間のみが破壊することで生じた。破壊停止点を調査した結果、その地下では、地震波の伝わる速度や微小地震の発生する深度が急変することが明らかになった。また、この地下構造の急変は、地質境界にも一致していた。同様の事例は、近年地震が発生した複数の活断層で認められる。これらの情報を一般化して、連動性評価の不確実さを低減することが現在のミッションである。

各種調査によって想定される地震の断層の位置や特徴、規模の平均像に応じて地震動の評価を行う方法に、過去の地震動データベースの統計処理に基づく地震動予測式(GMPE:Ground Motion Prediction Equation)による方法と断層の複雑な破壊過程を模擬して地震動計算を行う方法(断層モデル法)がある。地震動評価法による予測精度のばらつきを小さくする取り組みでは、いずれの方法でも原子力発電所の解放基盤面相当の硬質な地盤での地震記録の蓄積が重要な鍵となる。NRRCが全国29地点の露頭岩盤上に展開した地震観測網(RK-net)の記録は、これまでも国内で開発された多くのGMPEに活用されるとともに、断層モデル法を適用するための震源の破壊過程の解析に利用されている。

一方、調査によって事前に震源が特定できない地震の揺れ、「震源を特定せず策定する地震動」の評価も重要である。これはマグニチュード6クラスの内陸地震で、稀に震源近傍にてGMPEによる予測を上回る大加速度記録が観測されることがある。過去の統計データに合致しない記録の要因として、震源から近距離のデータが慢性的に不足している影響、サイト特性と呼ばれる地点固有の影響が示唆されている。NRRCでは、こうした統計データに合致しない特異な記録に対し、観測地点での詳細な地盤調査を実施し、サイト特性を解析的に取り除いた記録として再推計している。こうした結果の一部は、現在規制ガイドにも反映され、GMPEの高度化に向けRK-netの記録とともに整備されている。

図

現在稼働中のRK-net観測点(※電気新聞作成)

著者

青柳 恭平/あおやぎ やすひら
電力中央研究所 原子力リスク研究センター 自然外部事象研究チーム 上席研究員

佐藤 浩章/さとう ひろあき
電力中央研究所 原子力リスク研究センター 自然外部事象研究チーム 上席研究員

電気新聞 2021年8月30日掲載

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