電力中央研究所

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NRRC研究紹介連載企画

地震PRAの高度化に向けて
第4回 基礎地盤・斜面フラジリティ評価

地震PRAにおける基礎地盤や周辺斜面の地震フラジリティ評価は、基本的には「日本原子力学会標準 原子力発電所に対する地震を起因とした確率論的リスク評価に関する実施基準:2015」に則り実施されている。地震応答計算には等価線形解析が用いられ、すべり安全率による評価が行われている。本手法はすべり破壊による変位・移動が生じる可能性を評価するものであり、定量的な変位量、移動量を評価する手法ではない。基礎地盤・斜面を対象に、より現実的な応答を評価するため、これまでの安定性評価の知見を踏まえつつ実際の挙動を正確に評価できる手法の導入が必要となる。

そこで、原子力リスク研究センター(NRRC)では、地震動の作用による地盤の破壊と変形を評価できる動的非線形解析手法の開発を行ってきた。解析手法の妥当性を確認するため、基礎地盤や斜面の遠心力作用下での加振実験を行い、その実験の解析を実施してきた。また、斜面崩壊の際の法尻先にある施設への影響を評価するために、斜面が崩れ落ちる挙動を解析可能な不連続体解析手法の開発も進めている。

さらに、NRRCでは、これらの開発した手法を用いて基礎地盤および周辺斜面の地震フラジリティ評価法を提案した。まず、基礎地盤について、BWRモデルプラントを想定し、「原子炉を支持している基礎地盤が損傷することで、構造物および重要機器が損傷を受ける」、「基礎地盤の変形により,原子炉建屋~タービン建屋間の相対変位が発生し、非常用冷却系配管が機能喪失する」というシナリオを設定した。これを評価するために、原子炉建屋の傾斜と建屋間の相対変位を動的非線形解析により算出する。重要機器や配管が損傷する傾斜、相対変位の大きさについて別途調査しておく必要がある。現状の評価対象であるすべりについてもその結果としての変形を評価することで考慮することになる。入力地震動の加速度レベルと地盤物性を変動させた多ケースの解析結果を用いてフラジリティ曲線を算出する。

周辺斜面については、①地震動による斜面崩壊の発生、②崩壊土塊、岩塊の原子炉建屋や屋外の重要機器や設備への到達、③施設に到達した崩壊土塊、岩塊の衝撃作用による施設の機能喪失の三段階の評価を行う。まず、①について、動的非線形解析により、入力地震動の加速度レベルと地盤物性を変動させた多ケースの解析を行う。斜面が不安定化する変形条件を設定し、解析結果との比較から、フラジリティ曲線を算出する。さらに崩壊領域を決定する。次に、②について、①で決定した崩壊領域から崩落する土塊、岩塊の到達距離を不連続体解析により算出する。関連する地盤物性を変動させた多ケースの解析を行い、設備への土塊、岩塊の到達確率を評価する。最後に、③について、②の結果を用いて土塊、岩塊の衝突により構造物に作用する衝撃力を算出する。構造物の耐力評価を行い、解析結果との比較から構造物の損傷を評価する。

上記の手法により、基礎地盤や周辺斜面の損傷から炉心損傷にいたるシーケンスの詳細な評価が可能となる。

図

原子力発電施設の安全性に影響を及ぼす地震起因の地盤の挙動とその評価

著者

澤田 昌孝/さわだ まさたか
電力中央研究所 原子力リスク研究センター 自然外部事象研究チーム 上席研究員

石丸 真/いしまる まこと
電力中央研究所 原子力リスク研究センター 自然外部事象研究チーム 主任研究員

吉田 泰基/よしだ たいき
電力中央研究所 原子力リスク研究センター 自然外部事象研究チーム 主任研究員

電気新聞 2021年9月1日掲載

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