電力中央研究所

一覧に戻る

NRRC研究紹介連載企画

地震PRAの高度化に向けて
第6回 機器配管フラジリティ評価

国内原子力発電所の耐震設計は、過去に経験した地震に基づき改定が行われ、十分な安全性が確保されているが、東日本大震災後の基準地震動の増加により原子力発電所の機器配管の耐震余裕は低下している。原子力発電所建屋内の配管に設置された弁については、新しい基準地震動により耐震評価した結果の応答加速度が10G※程度まで生じることがあり、振動実験による安全性の確認が急務であった。国内で利用可能な振動台の最大加速度は3G程度が限界であり、ばねを利用した振動増幅装置を用いることにより10Gまでの機器配管の加振試験が行われていた。これらの既往試験では、機器の限界の加速度まで試験は行われずに、振動実験装置の限界までの試験結果により各機器の加速度の限界が規定されていた。

原子力リスク研究センター(NRRC)では、新しい振動機構による増幅装置の開発を行い、最大加速度20Gまで加振試験可能な「共振振動台」を導入した。この共振振動台は、10トンまで積載可能であり、20Gの加振能力は世界最高性能を誇る油圧式振動実験装置である。

この共振振動台を利用して、原子力機器の安全性確認試験を行っている。機器の振動実験では、電動弁・空気作動弁・主蒸気逃がし安全弁・主蒸気隔離弁の実物の試験体を用いて20Gでの加振試験を行い、加振中に弁の開閉操作により動作機能を確認した。これらの試験結果は、原子力発電所の耐震規程JEAC4601に反映され、耐震設計法を改定し安全性向上に活用されるだけでなく、地震PRAにおける機器フラジリティ評価も高度化された。

一例として、主蒸気逃がし安全弁のフラジリティ評価については、国内の原子力発電所における地震PRA評価の重要度分析で最上位の機器にランクされていたケースがあった。耐震規程改定前は9.6Gの限界加速度で評価していたものの、20G加振試験結果において、機器の機能維持が確認されたため、約2倍の加速度まで耐力が向上した。この結果、主蒸気逃がし安全弁のフラジリティの実力をより適切に評価することができ、炉心損傷頻度(CDF)への寄与を低下させることができた。他の電動弁などについても同様にフラジリティ評価を高度化できている。

NRRCは、機器配管の加振試験を今後も行い、地震PRAの高度化研究を続けていく予定である。

※G:重力加速度。1Gは980gal(ガル)。

図

共振振動台全景

図

主蒸気逃がし安全弁試験状況

著者

酒井 理哉/さかい みちや
電力中央研究所 原子力リスク研究センター 自然外部事象研究チーム 上席研究員

電気新聞 2021年9月3日掲載

Copyright (C) Central Research Institute of Electric Power Industry