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電気新聞テクノロジー&トレンド

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持続可能社会における電化の役割

持続可能な社会の実現に向けて、電化の果たすべき役割はきわめて大きい。この連載では、社会の要請に応じて電化が適切に進展することを念頭に、全5回にわたってその多様な価値を俯瞰し、運輸・産業分野での電化動向を紹介するとともに、電化の阻害要因を克服するための政策的配慮や長期シナリオについて考察する。第1回では、総論として、SDGsとの対比も交えながら電化の意義について述べ、一例として電化による生産性向上の可能性を論じたい。

第1回「電化がもたらす多様な価値」

電化とは
本連載では、電化を広義にとらえる。狭義では、暖房・給湯や調理、プロセス加熱、移動などの効用を得るために消費していた燃料を電気に置き換えること、いわゆる熱源転換を指す。エコキュート、IHクッキンヒーター、電気自動車などが分かり易い例であろう。一方、これまでエネルギーを投入することの無かった用途において、新たな効用を得るために電気を活用することも広義には電化といえる。例を挙げるとすれば、人工光型植物工場でのLED導入や、介護現場で使用されるパワーアシストスーツなどが該当する。

電化は、新たな電化製品の普及やライフスタイルの変化に伴い進展してきた。最終エネルギー消費における電力エネルギーの割合である電化率をみると、2017年度データでは、家庭部門で49%、業務部門で61%と、民生部門では年々増加している。一層の電化には現有技術の改良や消費者への情報提供を含む普及方策が重要である。一方、産業部門の電化率は24%、運輸部門は3%といまだ低水準である。これらの部門では、生産プロセスを変革する電気利用技術のブレークスルーなど、より基礎的な取り組みが必要となる。

持続可能社会への寄与
ここからは、持続可能社会の実現に向けて電化がもたらす価値を考える。電化の価値は多岐にわたるが、「エネルギー・環境問題の解決」と「社会活動の高付加価値化」の2つの柱に集約できる。表は、電化の価値をSDGsと対比したものである。17目標のうち、健康・福祉、産業・技術革新、気候変動対策など7つの目標実現に寄与することが分かる。

図

表 電化の価値とSDGsの対比

一つ目の柱であるエネルギー・環境問題の解決、特に気候変動問題の解決に向けては、脱炭素社会の実現が大きな課題となっている。そのためには、既に多くの指摘があるように、徹底的な電化と発電の脱炭素化の同時達成が必須である。ヒートポンプに代表される高効率機器は、その省エネ性によって温室効果ガスの排出量削減に寄与することに加え、再生可能エネ(太陽光や風力など)を起源とする電力の変動や余剰分の活用を通じ、発電の脱炭素化にも同時に寄与することができ、大きな相乗効果が期待できる。

社会活動の持続的な発展には、二つ目の柱である高付加価値化が重要な課題となる。特に人口減少と高齢化が進む我が国においては、電化による生産プロセスの自動化・省人化はもちろんのこと、人の関与が必要な活動における労働生産性の向上とこれを支える健康や安全の確保においても、電化が寄与する可能性は高い。図に示すように、温湿度や光をはじめとする職場や家庭の環境は、人の体調や集中力などに影響を及ぼし労働生産性を左右するため、環境を良好に整備することが重要である。電気利用技術は制御性が高く燃焼を伴わないため、快適で安全な環境整備に適しており、労働生産性向上に向けて有効な手段であるといえる。

図

<用語解説>
SDGs:持続可能な開発目標。2015年9月に開催された国連サミットにおいて、2030年までに世界各国が対応すべき目標として採択された。持続可能な世界を実現するための17の目標と、それらを達成するための169のターゲットで構成されている。

著者

黒本 英智/くろもと えいち
略歴 電力中央研究所 エネルギーイノベーション創発センター カスタマーサービスユニットリーダー 参事
1985年 東京電力入社、2014年 電力中央研究所入所。2016年10月より現職。専門分野は、建築環境工学。

電気新聞 2020年1月20日掲載
電気新聞ウェブサイト 2020年3月27日掲載

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