電力中央研究所

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電気新聞テクノロジー&トレンド

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「食の脱炭素」へ 電中研の挑戦

前回は電化厨房のメリットと換気量低減による省エネルギーの可能性について述べた。今回は実際の厨房への新指針の適用に焦点を当てる。電化厨房の省エネルギー化に向けた設計指針の確立を目指し、2017年に日本エレクトロヒートセンターは、「業務用電化厨房施設の換気設備設計指針」を制定した。当所はその検討において指針策定の基礎となる実験を約10年で1000ケース以上実施した。また、この指針内容を当所の新築建物の厨房に適用した。今後、省エネルギーを志向する厨房のモデルになることを目指している。

第3回「業務用電化厨房②」

10年以上実験重ね
業務用電化厨房の省エネルギー化に向けた新たな設計指針の策定を目指し、日本エレクトロヒートセンター(JEHC)の電化厨房委員会に「業務用厨房における換気設計基準検討ワーキング」が設立された。当所は、業務用電化厨房の必要換気量に関する実験を約10年で1000ケース以上実施し、そこで得られたデータを蓄積するなど協力した。

業務用厨房は住宅の台所と異なり、機器の種類が多い。これは供食数が多く、調理内容ごとに機器があるためである。また、各機器の発熱の特徴や機器を覆う排気フードの形状なども多様である。

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写真1 業務用電化厨房の換気性能試験設備外観

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写真2 機器やフードが配置された内部

こうした多様な条件で必要換気量を明らかにするために業務用電化厨房を対象とした換気性能試験設備を2009年に開発した(写真1、2)。設備は換気量と給気温湿度を高精度に制御可能で、給排気を循環させない設備の制御精度としては、世界有数と自負している。

この精度と再現性の高い設備において、機器や排気フードを様々に配置し、換気量をパラメータにして、機器から生じる熱や湯気の排気フードによる捕集量を多様な条件で明らかにした。いずれの知見も国土交通省監修「建築設備設計基準」に定められている換気量より低減できることが示唆された。

蓄積したデータに基づき、2017年2月に「業務用電化厨房施設の換気設備設計指針(JEHC103-2017)」(以下、JEHC指針)が制定された。JEHC指針は、省エネルギー化の有効な手段となるような換気設計を提案するとともに、労働・衛生環境維持の両立が可能な厨房の姿を示している。JEHC指針の採用により一般的に換気量は従来の2~3割削減され、厨房の空調・換気に要する消費電力の削減率も同程度になると期待される。

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写真3 我孫子地区に新設した職員食堂

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写真4 換気量を抑制した厨房は、省エネ型モデル施設として活用していく

JEHC指針制定後、当所我孫子地区(千葉県我孫子市)に、1回当たり200食規模の職員食堂厨房を設けることになった(写真3、4)。JEHC指針を計画時から採用した第1号物件である。設計換気量は「建築設備設計基準」と比較し約5割減になったほか、排気ダクトの小型化や給排気ファンが小容量化し、イニシャルコスト削減や天井内の収まりの改善につながった。省エネルギー志向のモデル厨房になることを目指している。

設計の選択肢拡大

その後、2021年8月に前回紹介した通称・茶本の最新版「建築設備設計基準 令和3年版」が発刊された。電化厨房換気に関する記載は、原則、排気フード面風速(毎秒0.3m以上)から算出した換気量とすることには変更はないものの、ただし書きに「厨房の使用条件、厨房器具、フード形状などに応じた必要換気量が明らかな場合は、その値を用いて算定することを検討してもよい。」という文言が追加された。必要換気量の根拠が明確であれば換気設計の選択肢が広がる余地が生まれた。今後、電化厨房がさらに普及し、省エネルギーを通じて広く社会に貢献できることが望まれる。

著者

岩松 俊哉/いわまつ としや
略歴 電力中央研究所 グリッドイノベーション研究本部 ENIC研究部門 上席研究員(現在、企画グループ 上席)
2010年入所。専門は建築環境学。建築における温熱環境や換気、省エネルギーに関する研究などに従事。博士(環境情報学)。

電気新聞 2022年4月25日掲載
電気新聞ウェブサイト 2022年7月8日掲載

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