電力中央研究所

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電気新聞テクノロジー&トレンド

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次世代電力ネットワーク形成に関する検討

送電系統では、需給バランスの安定化のために需給調整市場や広域需給調整システムの整備が進められている。合わせて供給力・調整力の広域的な調達・運用による需給運用コストの低減も図られている。一方で、平常時の系統混雑を許容して電源の接続を行う「コネクト&マネージ」の導入に伴い、調達した供給力・調整力の活用が系統運用制約により制限される場合も想定される。このため、系統混雑を考慮した需給運用計画の最適化が重要となっている。第3回では、需給運用と系統混雑について紹介する。

第3回 需給運用と系統混雑管理の最適化

次期中給にはSCUC具備へ/市場約定ロジックに活用
送配電部門の法的分離以降、需給バランスの維持については、一般送配電事業者が一義的にその役割を担っており、周波数を常に監視しながら指揮命令系統下にある発電設備を制御することで、瞬時瞬時の需要と供給をバランスさせて周波数変動が一定の幅に収まるように努めている。

他方、小売事業者と発電事業者はバランシンググループ(BG)を形成し、系統運用者に提出した計画通りに発電する役割を担っている。各BGは、自らの小売需要をできるだけ正確に予測し、それに合わせて供給力を調達する。そして、卸電力市場のゲートクローズ(GC)までに30分単位の小売需要想定値と卸売電力量(発電電力量)を一致させる「30分同時同量」が求められる。

実際の需要と乖離
ただし、気温や人々の行動により実際の需要は時々刻々と変化するため、実運用段階での需要電力量と発電電力量は乖離(かいり)する。また、落雷などで発電設備や送変電設備が停止して供給力が減少する場合もある。GC後の需給不一致は系統運用者が調整することになっており、所要の調整力を需給調整市場から調達する必要がある。

コネクト&マネージの導入に伴い、地域間連系線および地内送電線の混雑増加が想定されている。

送変電設備の運用容量制約により市場約定された供給力・調整力を十分に活用できない状況を避けるため、系統運用者は経済性と公平性の観点から合理的な需給運用計画を策定し、供給力・調整力の追加対策を検討する必要がある。この際、系統混雑を考慮した需給運用計画の最適化計算が重要となる。

図

需給運用計画を最適化する計算はユニットコミットメント(UC)と呼ばれ、時間ごとの需要想定値と調整力必要量に対し、運用コストが最小となる発電設備の起動停止と出力配分の組み合わせが決定される。一般に、UCは非線形性を持つ大規模な組み合わせ最適化問題を解くことになり、実用時間内に良質な解(需給運用計画)を得ることは簡単ではない。さらに、発電設備に加えて送変電設備の運用制約を考慮したセキュリティー制約付きユニットコミットメント(SCUC 図1)は、単純なUCと比べてはるかに難易度が高い。

近年、SCUCに関する研究は進展し、計算機の能力向上と強力な最適化ソルバーの登場と相まってほぼ実用の域に達している。例えば、次期中央給電指令所には、需給逼迫や系統混雑への対策検討のためにSCUCが具備される予定である。合わせて、同時市場の在り方検討会では、市場約定ロジックとしての活用が検討されている。

図

実務上では簡略化
それでもなお、系統運用上の制約をすべて考慮することは不可能であり、実務上は多くの簡略化が行われる。例えば、UCで直接的に扱える物理量は一般に有効電力のみであるが、実際の系統運用では周波数・電圧・同期安定性の制約(通常は運用容量マージンとして設定)も考慮する必要があり、各種制約に対する運用可否判断や発電機会損失への対応は簡単でない。また、熱容量以外で定まる運用容量については、特定の断面で想定した電源構成を基に導出しており、厳密にはUCの計算過程でその値も変化し得る。このほか、需要の価格弾力性や三次調整力発動による系統混雑などへの対応も課題として残されている(図2)。

従って市場制度設計においては、需給バランスだけでなく周波数・電圧・同期安定性などをどのように維持するかを含め、慎重な議論が必要である。

著者

花井 悠二/はない ゆうじ
略歴 電力中央研究所 グリッドイノベーション研究本部 上席研究員
2011年入所。専門は電力系統工学。電力系統の計画・運用の最適化に関する研究に従事。博士(工学)。

電気新聞 2023年10月23日掲載
電気新聞ウェブサイト 2023年12月1日掲載

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