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電気新聞テクノロジー&トレンド

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光で電気を送る「光給電技術」

レーザーなどの光エネルギーを遠隔地で電力として用いる光給電は、数百メートルを超える空間伝送や、10キロメートルを超える光ファイバーでの伝送が可能である。高周波を用いた無線給電と比べると長距離伝送に優れており、新しい電気利用を予感させてくれる技術である。連載第2回では、光給電の高効率化、高出力化など最近の研究開発のトレンドと、光給電の特徴を生かしたアプリケーション例を紹介する。

第2回 実用化が近づく光給電技術

レーザー高出力化で供給力向上/多様な適用領域に期待
身近な通信に目を向けると、有線接続の固定電話の利用は減り、無線接続のスマートフォンが主流になった。このような無線化のイノベーションが電気利用の世界でも起きるかもしれない。

長距離利用も可能
本連載で紹介している光給電は、レーザーなどの光源と、発電を行う受光素子を利用した給電技術である。図1に各種無線給電と光給電の伝送距離と送電電力の概要を示す。高周波の磁界や電界、電波を用いた無線給電が、主に数センチメートルや数メートル程度の近距離の電力供給に利用されるのに対し、光給電は、光を細いビームで遠方まで効率よく伝送できるため、長距離での利用が可能である。さらに、伝送路として低損失の光ファイバーを利用することも選択肢となる。

図

図1

光給電の光源として用いられるレーザーは、通信用として開発され、数ミリ~数百ミリワットの出力のものが主流であったが、近年は加工用レーザーの普及により高出力化が進んでいる。例えば、半導体レーザー単体で数ワット、チップの並列化で100ワット級に、光ファイバーで増幅した光を結合させることで、数十キロワット級の出力が可能となってきている。高出力なレーザーが利用可能となってきたことで、光空間給電で100ワット級の電力供給や、10キロメートルを超える1本の光ファイバーにより1ワットの電力供給を可能とする光ファイバー給電などが報告されている。

光源における電気から光への変換効率は、近赤外半導体レーザーの市販品で40%以上、研究段階のもので75%が報告されている。また、光を電気に変換する受光素子においては、様々な波長成分を含む太陽光発電では変換効率が20%程度であるが、レーザー光の特定の波長で最も効率が良いように材料や構造を工夫することで、化合物半導体で70%近くの変換効率を実現した研究が報告されている。光源と受光素子の両者の変換効率を合わせると約50%の効率が期待できる。

光給電のアプリケーションの例を図2に示す。光給電は、(1)長距離化が可能(2)小型化に向く(3)ある程度の電力供給が可能(4)電磁両立性(EMC)に優れる――などの特徴により適用領域は多岐にわたる。

図

図2

移動体への適用を考えると、遠隔から常時電力供給ができるためバッテリーを大幅に小さくすることができる。地上の移動体として、無人搬送車(AGV)や電気自動車(EV)を考えるとバッテリー残量を気にせずに走行が可能となるとともに、軽量化、小型化による低消費電力化も期待できる。上空の移動体としては、ドローンを対象とした研究が進められており、連続給電により長時間の滞空が可能になる。

宇宙での電力伝送
一方、小電力の機器としては、センサーやタグなどのIoT機器や無線通信などが対象となる。医療分野では、数ミリサイズの「バッテリーレス体内埋め込みデバイス」に皮膚の上から光給電をする利用が期待できる。位置が固定のセンサーや通信アンテナに対しては光ファイバーで接続し、安定した電力供給と高速通信を光ファイバーのみで行う構成も提案されている。また、水中に関しては、電波が通りにくいため光は有力な候補となる。月面探査などの宇宙では、金属の電線は運搬コストが高いこともあり、給電の無線化は重要な技術となる。宇宙太陽光発電では、衛星から地上へのエネルギー伝送にレーザー光を用いる構想も検討されている。

光給電は、既存のワイヤレス給電ではカバーできない領域を広く対象とできるため、様々な分野での活用が期待される。未来のサンタクロースはトナカイが不要のそりに乗っているかもしれない。

著者

池田 研介/いけだ けんすけ
略歴 電力中央研究所 グリッドイノベーション研究本部 上席研究員
広報グループサイエンスコミュニケーター(兼務)
2006年入所。専門は光ファイバー通信、光給電、無線通信など。2023年4月に開催された、光給電の国際会議「OWPT2023」ではプログラム委員長を務めた。光ファイバー給電を用いた電気絶縁可能なアンテナシステムの研究では、2022年度電子情報通信学会通信ソサイエティ優秀論文賞を受賞。毎年発刊される電気新聞ジュニアムック「かがく探究ヒントBook」では子ども向けの実験工作コーナーを監修。博士(工学)。

電気新聞 2023年12月25日掲載
電気新聞ウェブサイト 2024年2月9日掲載

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