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電気新聞テクノロジー&トレンド

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石炭灰など燃焼灰を用いたCO2削減技術

第2回では、石炭灰に炭酸塩として二酸化炭素(CO2)を固定する技術を石炭灰処分場に適用し、社会実装を目指す研究について紹介した。本技術では、灰へのCO2固定と処分場の早期安定化が期待できるのみならず、炭酸塩化した石炭灰を掘り返し利用することができれば、処分場の埋め立て容量にも余裕が生まれ、期待するCO2削減プロセスもより持続的となる。第3回では炭酸塩化された石炭灰など燃焼灰の大量利用技術の確立を目標とした地盤材料分野での利用研究について紹介する。

第3回 地盤材料への利用

炭酸塩化した灰の大量利用へ/副産物を併用、品質安定化
石炭灰については、第1回で紹介したコンクリート二次製品や漁礁・藻礁材としての利用のほか、石炭灰混合材料としての地盤材料利用がこれまで図られてきた。地盤材料としての利用では資材の大量利用が期待でき、石炭灰混合材料については、2021年に土木学会より利用技術指針が発刊され有効利用支援が行われてきた。一方で、炭酸塩化された石炭灰など燃焼灰に関しては、有効利用の検討が始められたばかりであり、これらを地盤材料として適切に活用していくためには、材料の諸品質や固定CO2の安定性などの評価が不可欠である。

発生量に大きな差
第2回で紹介したように、石炭灰は、1トン当たり平均約6.3キログラムのCO2を固定する能力があると推定されるが、同じく塩基性の粉体副産物であるバイオマス専焼灰や廃コンクリート微粉は、炭酸塩化の源となる消石灰などの成分に富むため、トン当たり石炭灰の数倍以上のCO2が固定可能である。しかしながら、石炭灰は年間約1300万トン発生しているが、バイオマス専焼灰や廃コンクリート微粉の発生量はその五十分の一前後と試算され、品質も安定的ではないため、優秀なCO2固定能を生かした活用ができていない現状がある。電力中央研究所では、石炭灰を主成分に電気事業で発生したバイオマス専焼灰や廃コンクリート微粉を混和し、性状の均質化を図ったセメント不使用の地盤材料の開発に取り組んでいる。上記3種の副産物のみ配合したモデル資材では、想定用途で要求される力学品質や環境安全性を満たし、資材トン当たり最大約23キログラムのCO2を固定する能力があることを明らかにした。

図

工事からの排出減
トンネル掘削工事や地盤改良工事などで発生する建設汚泥は、年間約600万トン超発生しており、約8割は再資源化されているが、主要な用途は固化材添加あるいは脱水処理をした上で、盛土や埋戻しなどの地盤材料として利用されている。30万立法メートルを超える土量を処理する大規模現場も存在し、石炭灰を含む粉体副産物については、既に建設汚泥を再資源化する際の固化材の構成材料として利用された実績もある。そのため、炭酸塩化させた石炭灰やバイオマス専焼灰、廃コンクリート微粉などの副産物についても、同様なプロセスでの大量利用とそれによる工事排出CO2の削減が期待される。電力中央研究所では、24年度より国土交通省の建設技術研究開発助成制度の援助を受け、国立環境研究所、福岡大学、泥土リサイクル協会との協同でこれら副産物を利用した固化材配合および施工技術の開発、社会実装に取り組んでいる。

3回にわたり石炭灰などの燃焼灰を用いたCO2削減技術に関する電力中央研究所の取り組みを紹介した。電力中央研究所は、こうした副産物の資源循環などの社会課題の解決に今後も取り組んでゆく。(この項おわり)

<用語解説>
石炭灰混合材料:石炭灰を主原料にセメントと添加材などを加え固化させた地盤材料を指す。工場で粒度調整し出荷される粒状材や、流動化状態で現場打設する塑性材・スラリー材などの種類がある。

廃コンクリート微粉:廃コンクリートから骨材を回収した際に残るセメントペーストを多く含む微粉。電気事業でもコンクリート製電柱や発電所建屋の撤去・保守工事などで廃コンクリートが発生する。

建設汚泥:シールド工法でのトンネル掘削や地盤改良の工事などで発生する多くの水分を含んだ土砂。泥状であるため、固化材や脱水材を加えて改質した後、有効利用されるケースがほとんど。

著者

小川 翔平/おがわ しょうへい
略歴 電力中央研究所 サステナブルシステム研究本部 主任研究員
2016年入所。博士(工学)、専門は環境地盤工学。重金属などによる土壌汚染に関する研究、石炭灰等循環資材の有効利用及び環境安全性評価に係る研究、燃焼灰のCO2固定に係る技術開発などに従事。

電気新聞 2025年4月21日掲載
電気新聞ウェブサイト 2025年5月30日掲載

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